新型コロナウイルスによる肺炎問題で、東京五輪中止が急遽話題になっている。ディック・パウンド国際オリンピック委員会(IOC)委員が開催是非の判断の期限として5月下旬(2020年)との見方を示したと、2月25日外電が報じたからだ。
IOCは開催中止を検討していないと明言しており、政府は、この発言はIOCの公式見解でないとし、開催への準備を進める考えとしている。
デッドライン「2ヶ月前まで」は常識
実は、筆者は以前から、5月下旬つまり東京五輪開催の2ヶ月前がデッドラインと発言してきた。このため、筆者のところにも外国メディアが取材にきている。もし中止するなら、ドタキャンはできないので2ヶ月前までというのは、この種の事務をしている人から見れば常識だろう。
これまで近代五輪は3回中止されたことがある。1916年ベルリン五輪、1940年東京五輪、1944年ロンドン五輪で、いずれも戦争のためだった。
IOCはビジネスとして五輪運営を考えているので、欧米諸国の間に日本での開催は困るという雰囲気が出始めたら、結構あっさりと他国開催に切り替える可能性もゼロではない。5月からのロンドン市長選において、東京の代わりにロンドンで引き受けるという候補者が出ているのは、こうした国際情勢を先読みしているのだろう。
もっとも、これまでの五輪で公衆衛生上の理由から中止はない。2016年8月のリオ五輪直前に、ジカ熱が大流行した。ジカ熱の時も世界保健機関(WHO)は2016年2月に緊急事態宣言を宣言したが、リオ五輪は開催されている。ただし、ジカ熱は多くに人に感染したものの、日本での感染症法上の扱いは危険度の低い第4類指定だ。
いずれにしても、カギを握るのが、5月下旬ごろ、新型肺炎がどうなっているかだ。
終息宣言のタイミングは?
先日、政府の専門家会合において、新規の感染者増加数はここ1、2週間でピークになるという議論があったようだ。実は、筆者は役人として大蔵省に入省する前に、政府系研究所において感染症流行モデルの研究をしたことがあるので、そのときの知見を生かして1ヶ月前から独自に試算した流行モデルをネット上で公開しているが、それによっても似たような結果だ。
もっとも、新規感染者の増加は、ピークの後に減少していくが、それがゼロつまり累積感染者が増えなくなるのはかなり先である。WHOの基準では、ウイルス患者がいなくなってから28日間が経過すれば終息とみなす、とされている。筆者の予測では、4月上旬から感染者数はあまり増えなくなるがそれでも増え続けるので、5月下旬にWHOの終息宣言が出るかどうかはかなり微妙だ。
もちろん、WHOの終息宣言は必ずしも必要でない。リオ五輪もジカ熱の終息宣言の前に行われた。
中止になれば損失は大きい
もし東京五輪が中止になれば、その場合の経済損失は大きい。東京都の五輪経済効果試算によれば、2013年から2030年までの18年間で、経済効果は約32兆円とされている。32兆円の内訳は五輪前8年間でインフラ整備等21兆円、五輪後の10年間で五輪関連イベント等11兆円だ。
この試算とすると、五輪前はインフラ整備で1年あたり2.6兆円、五輪後は関連イベントなどで1.1兆円なので、前後でマイナス1.5兆円となり、五輪後の景気は通常開催でも落ち込むと考えてもいい。しかし、五輪中止になると、さらに落ち込みが大きくなる、つまり関連イベント分1.1兆円がなくなり、五輪前と比べてマイナス2.6兆円になる。今のイベント自粛ムードが長引くこととなり、4月以降のGDPもマイナスになるかもしれない。 消費増税、新型肺炎、その上に五輪中止となったら、強烈トリプルパンチで日本への大打撃だ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「韓国、ウソの代償」(扶桑社)、「ファクトに基づき、普遍を見出す
世界の正しい捉え方」(KADOKAWA)など。