東京都で新型コロナウイルスのPCR検査数に対する陽性者の割合を示す「陽性率」が高止まりしているのを危惧する声が出ている。市中感染が広がり、潜在的な感染者を把握できていないことが推測されるからだ。オーバーシュート(爆発的な患者急増)が起きた欧州では、陽性率が一定割合を超えると死者数が増えたとの分析もあり、都も同様の傾向がみられる。死者数を抑えて収束に向かうためには検査数を拡充して陽性率を下げ、早期に感染者の隔離・治療を行うことが急務だ。
■山中教授も警鐘
東京都が毎日発表している検査数、陽性者数をもとに陽性率を計算するのに際し、検査結果が出るまでの日数のずれや平日と休日で検査数に差異があることなどを踏まえ、1週間ごとの累計を活用した。1人から複数の検体を採取して調べていることもあるため、正確な陽性率とはいえない部分もある。
その結果、2月2日~3月21日の7週間は0~7・4%だったが、小池百合子知事が独自の外出自粛要請を出した同25日を含む22~28日には、17%に上昇。この頃から「夜の街」クラスター(感染者集団)の存在が明らかになり、感染経路不明の事例が相次いで確認されるようになった。
その後、4月12~18日に21・6%となり、週の途中だが同19~21日には33・9%に達した。死者は3月29日~4月4日の週に初めて二桁の15人となり、その後、同5~11日は16人、同12~18日に28人、同19~21日には13人と増加傾向がみられた。
都の陽性率の高さをめぐっては、京都大iPS細胞研究所長の山中伸弥教授がホームページで「非常に高くなっている。検査数を増やさなければオーバーシュートがあっても見逃す」と危惧。「必要な検査が行われないと、医療従事者の感染リスクが高まり医療崩壊が懸念される」として検査態勢の強化を求めた。
一方、慶応大病院は4月13~19日に新型ウイルスとは別の入院患者にPCR検査をした結果、67人中4人の陽性者が確認されたことを公表。陽性率は6%で、いずれも発熱などの症状はなかった。「院外・市中で感染したものと考えられ、地域での感染の状況を反映している可能性がある」としている。
■陽性率低い→死者数抑制
また、千葉大大学院の樋坂章博教授(病態検査学)らの研究グループは、初期の感染拡大の程度が近い欧米各国の検査状況と死者数の関係を比較。検査数の多寡は死者数と関連性がなかったが、陽性率7%未満の国はそれ以上の国に比べ、死者数を1~2割に抑えられていることが分かったという。
さらに、陽性率が高いほど、陽性者の増加後すぐに死者数の増加が起きることも判明した。「検査が不十分で発症前の感染者を見落としていたか、重症者の入院が手遅れになった可能性が高い」(樋坂氏)。
7都府県への緊急事態宣言から2週間が過ぎ、都の感染者数の伸びは鈍化傾向とされるが、樋坂氏は「陽性率が増加しており、検査が追い付いていない可能性もある。幅広く検査することで陽性率は下がり、死者数をより抑えられるはずだ」と指摘する。
軽症者は治療の必要性は低いが、検査数を拡充し、軽症者も含めて感染者を市中から隔離することは、世界各国のデータからみて感染収束に欠かせないプロセスとなる。ただ、検査拡大による感染者数の急増は医療機関の病床を圧迫し、医療崩壊を招く恐れもある。「検査の拡充と症状別の患者の振り分け、自宅・施設療養の取り組みを同時に進めなければいけない」。樋坂氏はこう強調した。