東京 広さ50平方メートルほどの小規模住宅増加 規制の動きも

東京では、広さが50平方メートルほどの小規模な住宅が増え続けています。
都内に住みたいというニーズに応えて、もともと1つだった土地を複数に分割して建てられているこうした住宅。一方で、小規模な住宅ラッシュを規制する動きも。
都心の戸建てをめぐるリアルに迫りました。
(首都圏局/不動産のリアル取材班 記者 牧野慎太朗)

土地を3分割 50平方メートルが6000万円

私たちが最近、分譲された小規模な戸建てがあると聞いて、訪れたのは江東区北砂です。

最寄り駅から徒歩10分ほどの住宅街の一角に、真新しい3階建ての住宅が3棟建てられていました。住宅を供給した会社によると、ここには古いアパートがあったそうですが、それを取り壊して、150平方メートルほどの敷地を3分割して分譲したそうです。
 

3分割した理由は、住宅の販売価格を抑えるためでした。

150平方メートルの土地のままだと、土地代だけで1億円を超えてしまいます。
そのため、1棟あたりの敷地面積を50平方メートルに分割し、価格を建物代も含めて6000万円ほどにしました。3棟とも売り出してすぐに買い手が決まったということです。
この会社では、都内各地で同様の開発を進めていて、場所によっては1つの土地を7つに分割することもあるそうです。

オープンハウス 矢頭 肇 執行役員
「地価の上昇が続く中で、土地の分割は都心に割安な戸建てを供給する唯一の手段となっていて、特に30代の現役世代から買いたいという要望が強いです。それでも資材の高騰も相まって販売価格は上昇する傾向にあり、1棟あたりの敷地面積も小さくなる傾向にはあります。しかし、それでも子どもを良い環境で産み育てていただくために、一定の広さがある住宅は不可欠です。そのため、比較的手ごろな価格で一般世帯向けに住宅を提供することは非常に重要な使命だと思っています」

分割した戸建てはどう?

実際に購入した人たちにも取材しました。

去年足立区で、小規模な戸建てを購入した30代の夫婦です。
世帯年収は1000万円ほど。購入した戸建ても、もともとは1つの土地を3つに分割した一角で、敷地面積は50平方メートルほどです。価格は5200万円ほどでした。

夫婦は当初、妻の実家に近い千葉県松戸市や柏市なども検討していました。郊外に住めば今より庭や車庫が付いた広めの住宅を購入することもできたそうですが、都内の職場への通勤時間の負担などを考え、都心に住むことにしました。
当初予定していた5000万円という予算は超えたものの、3階建てにしたり、リビングを広めに設計したりすることで、家族3人で住むには十分な空間が確保できているといいます。

30代 男性
「敷地の中に、車庫や庭なども設けていませんが、特に望みませんでした。都心に住みたいというとマンションしか選択肢がないイメージだったので、一般人でもなんとか手が届く価格帯で戸建てという選択肢を作ってくれるのであれば、土地を分割した小規模な戸建ては消費者にとってはありがたい存在だと思います」

敷地の分割 NG

しかし今、小規模な戸建てのニーズは高まる一方、建設そのものは難しくなっています。
その理由は、東京23区内の自治体で土地の分割を規制する動きが広がっているからです。

おととし、規制を導入したのが荒川区。区内全域で、土地を分割した小規模な戸建てが近年急増していました。区の調査では、令和元年度には、土地を分割して建てられた戸建て108棟のうち、60平方メートル未満が70棟、全体の64%を占めるまでになっていました。

小規模な戸建てが増えすぎることを区が懸念した理由は、火災があった時の延焼リスクや住環境の悪化です。
このため、区は60平方メートルより小さく土地を分割することを禁止。これにより、120平方メートル未満の土地は2つに分割できないことになるため、価格を抑えた戸建ての供給が規制されることになりました。

戸建て住宅などが密集する荒川区

荒川区都市計画課 嶋根一正 課長
「街を歩いて見ても区内の小さな工場が郊外に転出したあとに、そのあと何が建つのかなと見ると、やはり分割した小規模な宅地が多くなっていました。東京23区で見ると荒川区はやはり交通の利便性はいいなかで、まだ比較的地価がやすいところで、開発する側からしたら開発しやすかったのかもしれません。やはり近年において宅地の狭小化がかなり顕著だったので、これ以上増やさないようにしたい、防災性を向上させたいと踏み切りました」

世田谷・杉並など7区でもほぼ全域禁止

こうした規制は「敷地面積の最低限度」と呼ばれています。

東京23区の各自治体に取材したところ、区内のほぼ全域で一定の広さより小さく土地を分割することを禁止してるのは、荒川区以外にも世田谷区や杉並区、練馬区など7つありました。
規制の広さは60平方メートルや、70平方メートル、100平方メートルなど自治体や地域によって異なります。

このほか、足立区では令和元年から150平方メートル以上のまとまった宅地を開発する場合に、66平方メートル未満に土地を小さく分割することなどを規制する条例を制定しています。

専門家は

都心に住みたい人たちのニーズに応えた開発と小規模な住宅が増えすぎることによるリスクをどう考えればいいのか。住宅政策に詳しい専門家に取材したところ、「若い世代でも入手可能な住宅施策は急務だ」としつつも、土地の分割による戸建ての供給は、将来的な課題も多いと指摘しました。

明治大学 野澤千絵 教授
「中長期的には隣の家との間隔や敷地の入り口が極めて狭いために将来の改修や建替えが難しいことも多い。3階建ての狭小住宅は高齢者には非常に住みにくいため、将来にわたって良好なストックになりにくいほか、土地が細分化されることで、時代の変化にあわせた土地活用の困難さを増大させるなどの影響が懸念される」

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