東北、時給800円遠く 岩手・宮城、復興優先が背景

 最低賃金の底上げを目指す国の助成制度の利用が、東北で伸び悩んでいる。2011年度の導入後、徐々に浸透してきたが、東日本大震災の被災地を中心に申請件数は低迷が続く。もともと東北の最低賃金は全国最低水準にとどまっており、民主党政権が目指す時給800円実現への道のりは遠い。
 制度は最低賃金700円以下の都道府県が対象で、12年度は東北6県を含む33県が該当した。4年以内に時給800円への引き上げを目指す企業に対し、設備購入など業務改善にかかる経費を最大100万円補助する。
 東北の8月末までの申請は80件で、県別では青森8件(前年度実績1件)、岩手3件(0件)、秋田13件(17件)、宮城5件(2件)、山形25件(13件)、福島26件(2件)。全国計812件の申請に対し、東北分は1割にも届かない。
 岩手、宮城両県の低迷は、被災企業などが震災復興を優先させた結果とみられている。福島県の大幅増について、福島労働局は「原発事故による県外避難が長引き、労働力確保のために賃上げを迫られた側面がある」と分析する。
 民主党政権は10年、労使の代表を加えた雇用戦略対話で「20年までの早い時期に最低賃金800円を目指す」との目標を打ち出した。業務改善助成は賃上げに向けた施策の柱となるが、事業者側からは厳しい評価も出ている。
 岩手県内の経済団体幹部は「人件費は長く続く固定費。一時的な助成で底上げはできない」と指摘。東北の経済関係者の多くは「賃上げを実現するなら、政府による円高、デフレの解決が先決だ」と口をそろえる。
 最低賃金改善の動きは進んでいるとはいえ、東北の水準は全国最下位に近い650円台半ばが中心になる。東北で最高の宮城でも現行675円にすぎず、生活保護の給付水準さえも下回る。政府目標への道のりは遠い。
 東北の各労働局は「賃上げによる所得向上は地域経済を活性化させる。粘り強く業務改善助成の活用を促していきたい」と話している。

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