新型コロナウイルスの影響でオンラインによる遠隔授業を導入した東北の大学が、政府による緊急事態宣言の全面解除後も授業を原則オンラインで実施している。教室の感染対策の難しさなどを理由に、各大学は対面授業の再開に慎重なままだ。教育や研究活動をどう充実させるかが、各大学の共通課題となっている。
対面で再開できない事情の一つは学生の人数。約1万2000人が在籍する東北学院大は、8月12日までの前期の1800講座を全てオンラインで実施する。約600人の教員の大半は自宅で授業を行う。学生100~200人が聴講する大規模な授業もあり、「3密」回避が難しい。
学長補佐としてオンライン授業を統括する稲垣忠教授(教育工学)は「感染の第2波や第3波に備え、いつでも遠隔授業に切り替えられる態勢を維持する必要もある」と強調する。
東北大も8月までの前期授業をオンライン中心で実施する。データ駆動科学・AI教育研究センターの三石大准教授(教育工学)は「オンラインでも学生の出席率は高い。いかに教員の負担を減らしながら、教育効果を最大化できるのかが問われる」と改善を重ねる姿勢を示す。
試験の手法を見直した教員もいる。寺田真浩・大学院理学研究科長は「知識ではなく、物事の関連性の理解を問う試験が必要。危機的な状況だからこそ変わるチャンスだ」と実感し、答えが必ずしも用意されていない課題のリポート提出を求める予定だ。
学生からは対面授業の再開を求める意見が上がる。
宮城大カリキュラムセンター長の蒔苗(まかなえ)耕司教授は、オンライン授業を受講する食産業学群の新入生131人にアンケートを実施。「キャンパスでの対面授業と、遠隔授業のどちらを受けたいか」との質問に対し、「早くキャンパスで」「どちらかといえばキャンパスで」との回答が計78%を占めた。
蒔苗教授は「教室が固定される小中高校と異なり、大学はすぐに『新しい生活様式』に対応した教室を確保するのが難しい。大学に来ることに不安を抱える学生もおり、慎重な対応が必要だ」と遠隔授業の継続に理解を求めている。
◎実験などで対面再開
東北の大学では、オンラインによる遠隔指導が難しい実験など一部の授業について、例外的に対面で再開する動きもある。
東北工大は4日、卒業研究に取り組む4年生と大学院生に限り、10人未満のゼミ方式の対面授業を再開する。同大事務局は「『3密』を避けられる小規模な授業だけが対象。座学の授業は当面、オンラインで実施する」と話す。
岩手大は5月26日、新型コロナウイルス感染の政府による緊急事態宣言の全面解除を受け、農学部の農場実習や、教育学部の実技系の授業などを対面で実施できるよう決めた。
教務部の担当者は「少人数で、対面の方が教育効果が高い授業に限って再開を決めた」と説明する。オンラインの講義についても、8月の期末試験だけ大学の教室で実施する場合もあるという。
東北医科薬科大(仙台市)は感染状況を見極めた上で、今月22日以降に医学部と薬学部の実習の対面授業を再開する。