担い手の確保と農地集約による規模拡大に向け、国が市町村に求めている「人・農地プラン」作成の動きが、これから東北で本格化する。環太平洋連携協定(TPP)交渉参加問題を機に、にわかにつくられた事業であり、場当たり的な民主党農政に対する農家の不信もあって、どう進むか、先行きは不透明。しかし「人と農地の問題」の解決は急務だ。プラン作りは地域の話し合いがベース。知恵を出し合って地域の再生像を描く好機である。(編集委員・佐々木恵寿)
◎変化に応じ修正
国は本年度と来年度の2カ年でプランを作るよう求める。範囲は集落を基本に、複数集落にまたがっても市町村単位でも構わない。ただし、農業をやめ農地を貸し出す農家、受け手となる農業生産法人や新規就農者らがプランに記載されていることが、各種助成金を受け取るための要件だ。
最初から完璧でなくてよく、状況の変化に応じ修正が可能。このため「1回目」のプランを作った市町村は珍しくない。
「集落ごとに農地を委託、受託する人を把握し、町が原案を作って集落の了承を得た」。職員がこう語る山形県庄内町は、町内の集落89のうち87でプランができた。
農地の受け手の多くは認定農業者。集落をリードする農業者がいる所は話がまとまりやすい。
大震災の被災地でも動きはある。石巻市は市主導で18地区のうち10地区で作った。津波被災地では離農の動きが目立ち、農地を担い手に集約しないことには地域農業が立ち行かなくなる。厳しい現実が後押しする。
東北の大半の市町村は「農閑期を迎えたこれから、集落での話し合いを進めたい」と言う。だが、前途に横たわるのは、場当たり農政の影だ。
◎農家に不信感も
そもそもプラン作成事業が打ち出された背景には、TPP問題がある。
1年前、交渉参加に向け関係国との協議入りを決断した政府は、同時期に農業再生の基本方針を決めた。柱は平地で20~30ヘクタール、中山間地で10~20ヘクタール規模の経営体が耕地面積の8割を占める構造を目指すこと。それを受けてつくった農業強化策の一つがプラン事業だ。
民主党農政の核は所得補償制度で、兼業も小規模農家も支える。ところが基本方針では大規模化路線が掲げられた。ほぼ全ての農家経営を支援する施策を継続しつつ、他方で、農家減らしとも映るプラン作りを進める。
「ぶれる農政への農家の不信感は強く、プラン作りの中でもそれが反発の形で表れる」と宮城県内の市職員はこぼす。
中山間地では担い手不在の集落が目立つ。2年のうちに解決策を見いだすのは難しく、市町村の中にも結論を急ぐ国への不満がくすぶる。どう進むかは見通せない。
◎知恵が問われる
そうした現実も踏まえつつ、工藤昭彦東北大総長特命教授(農業経済学)はプラン作りのためではなく、それを契機にした話し合いで地域の将来ビジョンを練り上げることの重要性を強調する。
複数集落での営農組織化を通した農地集約、土地利用計画づくり、経営の複合化や6次産業化による集落内雇用の創出を例に挙げた上で「古里をどうするか、アイデアを出し合ってビジョンをつくりたい。プランを含む各種助成金は、その実現ために活用するという考え方が大切だ」と話す。
プランを入り口にした議論の過程は、古里再生に向け、市町村や農協を含む現場の知恵と力量が問われる局面でもある。
[人・農地プラン] 高齢化や後継者不足、耕作放棄地の増加といった問題の解決に向け、集落を基本に地域の話し合いによって(1)中心となる経営体(個人、法人、集落営農)はどこか(2)その担い手にどう農地を集めるか(3)担い手とそれ以外の兼業農家・自給的農家を含めた地域農業の在り方(経営の複合化、6次産業化など)-を盛り込む。プランに位置づけられた農地の出し手に農地集積協力金(面積に応じ30万~70万円など)、45歳未満の新規就農者には青年就農給付金(年150万円、最長5年)などの支援措置がある。