2011年の人口動態統計(概数)で、東北6県の離婚率の低下が目立っている。東日本大震災による生活環境の激変で離別する夫婦が増える、との見方もあっただけに、関係者は首をかしげる。「震災で離婚協議が中断しただけのこと」「家族の絆を確認したのではないか」。専門家の見解は分かれ、明確な理由は不明だ。
東北各県の離婚数、1000人当たりの離婚件数を示す離婚率は表の通り。11年は全国的に離婚率が低下したとはいえ、6県の振れ幅は平均を大きく上回る。
中でも宮城県の変動が際立つ。件数減少に伴い、全国平均をわずかに下回る水準だった離婚率が一気に低下。都道府県別の離婚率ランキングは昨年の12位から38位に“転落”した。
離婚問題は人間性や地域性、経済問題など複雑な要素が絡む。人口動態統計を担当する各県の担当者は「変動要因は説明のしようがない」と一様に歯切れが悪いが、専門家からは震災に原因を求める声が上がる。
市民団体「女性のための離婚ホットライン」(仙台市)の事務局長を務める小島妙子弁護士は「震災では生きるか死ぬかという状況に置かれた人が少なくない。家庭内の問題が後回しにされた」と指摘。裁判所が震災で一時的に機能停止したことも影響したとみる。
日本司法支援センター(法テラス)宮城地方事務所によると、通常、離婚相談の割合は全体の2割程度。しかし、震災直後はほぼゼロとなり、昨年夏ごろから再び目立つようになったという。
法テラス宮城の担当者は「震災による転居、転職のストレスが夫婦間の亀裂につながるケースもある。体感では離婚相談が増えている」と話す。
一方、海外の離婚手続きに詳しい甲南大名誉教授の野々山久也氏(家族社会学)は「裁判を経ずに離婚できる日本では、被災した裁判所の機能低下だけで件数が減ったとは考えにくい」と別の見方を示す。
阪神大震災の被災者に聞き取り調査した経験を踏まえ、野々山氏は「震災という危機に直面し、若い夫婦ほど互いを見直す傾向が目立った。東北でも、一時的ではあっても家庭内の絆を取り戻したケースが多数あったのでは」と推測する。
阪神大震災が発生した1995年を見ても、被災地の兵庫県では離婚率が一時低下している。果たして東北の傾向も一過性のものなのか-。専門家の見立ては、「こればかりは予想がつかない」の一点で一致している。