東北主要企業の36%、来春の採用「増える」 コロナ後見据え事業拡大へ

東北に本社を置く主要企業の2024年春の新卒者らの採用計画で、全体の36・4%が23年春より採用が増えると見込んでいることが、河北新報社のアンケートで分かった。新型コロナウイルス禍が収束に近づき、事業拡大のため採用を増やそうとする動きが目立った。一方で、少子高齢化による働き手の減少や、学生優位の「売り手市場」などを背景に、計画通りの採用が難しいとの見方を示す企業もあった。

 過去5年間の採用計画の推移はグラフの通り。「増える」は23年春の計画を尋ねた前回調査から3・6ポイント減少したが、20~22年春に比べると10~20ポイントほど高い水準だった。「減る」は前回比7・8ポイント増の14・5%、「前年並み」は6・1ポイント減の25・0%だった。

 業種別では、建設・住宅の8社のうち5社が「増える」と回答。「中長期的な経営計画達成のため必要な施工力を確保したい」などの声が上がった。専門店・小売りは9社のうち4社が「増える」と答え、「新規出店をはじめ事業拡大のため、採用を増やす」といった意見が出た。

 「前年並み」と回答したある企業は「増やしたいが、売り手市場が解消されず厳しい」と指摘。「分からない」と答えた企業は「内定辞退者も見込まれ、不透明感がある」と言及した。「減る」としたある企業は前年より増やす計画だったが「前年より応募が減っている」と理由を説明した。

 24年春の採用環境を「前年より売り手市場」とみる企業は前回から18・6ポイント上昇し、71・5%に上った。

 100人以上の採用を計画するのはアイリスオーヤマ、東北電力(東北電力ネットワークと合同採用)、ユアテック、ヨークベニマル、第一貨物(山形市)の5社。このほか、23年春に100人以上を採用した企業のうち、3社が24年春の採用は「増える」「前年並み」と見込んだ。

 アンケートは東北に本社や本店を置く上場企業など106社に実施。96社(90・5%)から回答を得た。

人手不足「感じる」は75% 応募少なく、人材確保に苦心

 河北新報社が実施した東北の主要企業アンケートによると、人手不足を「感じている」と答えた企業は75・0%に上り、2022年の前回調査を10・2ポイント上回った。23年春の採用実績が計画未満だった企業も56・8%と過半数を占め、多くの企業が人材確保に苦心している実態が浮かび上がった。

 回答状況はグラフの通り。「感じていない」は19・8%で、前回から7・7ポイント減った。

 人手不足を感じる企業のうち、経営に対して「影響がある」と答えたのは40・2%で、前回を8・0ポイント上回った。「今後の影響を懸念している」は52・7%だった。

 「影響がある」とした企業からは「ドライバー不足による仕事量の減少」(運輸)、「営業や新規出店が難しくなる」(専門店・小売り)など業績に響くことを懸念する声が出た。「デジタル化推進が急務となり、導入コストが増える」(建設・住宅)、「長時間労働の是正がなかなか進まない」(サービス)との意見も上がった。

 不足している人材(複数回答)は「即戦力となる中堅層、専門家」が63・8%、次いで「一定の経験のある若手」が61・1%、「新規学卒者」が48・6%などだった。

 人手を充足できない理由(複数回答)は「募集しても応募がない」が最多の70・8%。「内定を辞退された」(47・2%)、「採用したが定着しなかった」(45・8%)と続いた。

 人手不足への対応(複数回答)としては「業務効率の向上」が77・7%、「賃金アップなど採用条件の改善」が76・3%、「長時間労働是正などの働き方改革」が48・6%だった。

 23年春の採用実績と計画との比較を尋ねると「計画未満」が56・8%を占めた。「計画通り」は41・0%、「計画以上」は2・1%だった。新卒者を十分に確保できない状況などを踏まえ、63・5%の企業が23年度中の中途採用を「計画している」と答えた。

企業、売り手市場に苦戦 「内定辞退に追われる」「大手は早期に囲い込み」

 東北の主要企業アンケートで、2024年春の採用環境を「前年より売り手市場」とみる企業が71・5%に上った。学生の就職活動や採用試験の動向などを自由記述で尋ねたところ、就職活動の早期化や学生の「大手企業志向」への危機意識が目立った。

 政府は来春卒業予定の大学生らの採用試験の解禁を6月1日、内定を10月以降と定めるが、実際は先行して採用活動を進める企業が多い。6月1日時点で8割近い大学生が「内定を得た」と答えた民間調査もある。

 アンケートでは、いずれも製造業の企業から「新卒採用は年々選考時期が早まり、人材確保が難しくなった」「内定後も辞退を巡る対応に追われ、採用活動が長期化する傾向にある」などの回答があった。

 新型コロナウイルス禍で定着したオンライン形式の面接について「対面でなくとも就職活動ができ、タイパ(タイムパフォーマンス)などの観点から売り手市場に拍車がかかっている」(専門店・小売り)と懸念する意見も出た。

 待遇などを重視する学生らが大手企業を志向する傾向も強まる。総合・専門商社の企業は「大手は学生をインターンから早期に囲い込んでいる」と指摘。ある企業は「学生が待遇や働き方を重視していると注目されるが、(地方の企業で)仕事のやりがいを求める学生は一定数いる。自社の魅力を伝えたい」と回答した。

〔注〕24年春採用計画は調査時の数値。採用見通しは、計画通りに人員を確保できない可能性などが見込まれるため、計画の内容と一致しないことがある
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