東北大は、東日本大震災の津波による犠牲者の死亡状況を詳細に分析し、効果的な救命方法などを探る研究を始める。犠牲者の死因のうち約9割は溺死とされたが、低体温症など複合要因があった可能性が大きいとの指摘もある。溺死以外なら救命活動で生存率が高まるとみられ、研究成果を防災関連の新たな学問「生存学」として確立したい考えだ。
犠牲者情報は宮城県警から提供を受ける。身元が判明した約9500人の検視記録で、個人名を除く性別や年齢、遺体発見場所、死因、住所などが記載されている。検視データ活用の本格的な防災研究は初めて。
研究チームは、災害科学国際研究所長の今村文彦教授(津波工学)、医学部の舟山真人教授(法医学)ら7人。医学部倫理委員会の承認を経て、早ければ10月中旬にも始動する。
研究では検視記録を詳細に分析。溺死以外に「津波漂流物との衝突による損傷死」「海中に長時間いたことによる低体温症」「胸部圧迫」など七つの死因に分類する。遺体発見場所と津波浸水域の特徴を調べ、ダミー人形を使い津波が人体に及ぼす力も測る。
多岐にわたる研究を通じ迅速な救助方法、ライフジャケットや防災頭巾の開発などにつなげ、津波に巻き込まれても助かる方法を見つける。研究計画の概要をまとめた門廻充侍(せと・しゅうじ)助教(津波工学)は「研究成果から新たな避難対策を提示したい」と説明する。
チームは最終的に津波から生き延びる生存学の構築を目指す。研究期間は3~4年を見込む。岩手、福島両県警にも検視記録の提供依頼を検討している。
今村教授は「南海トラフ巨大地震や首都直下型地震への備えが進むが、十分な避難対策かどうかは検証できずにいる。研究によって生きるために必要な対策を補足したい」と話す。