東北大発の起業拠点「青葉山ガレージ」が活況 10社が飛躍目指す

東北大が仙台市青葉区の青葉山キャンパスに設けた起業家育成の拠点「青葉山ガレージ」が活気づいている。事業を軌道に乗せるまでの受け皿として法人登記を受け付け、学内発の起業を後押ししている。2022年2月の開設から約1年半でスタートアップ(新興企業)10社が契約。3年という利用期限内の飛躍を目指し、それぞれが存在感を高めている。
(報道部・三浦光晴、亀山貴裕)

大学発スタートアップの拠点となっている青葉山ガレージ。特徴的な本棚が訪れる人を出迎える

 6月上旬、青葉山ガレージの共有オフィス。「起業しようと思ったのはなぜですか?」。流線形の本棚に囲まれたフロアで大学新聞の取材が始まった。取材を受けるのは工学部を今春卒業した小林雅幸さん(23)。地域雑誌の製作などを通じて地域課題の解決を目指すRurio(ルリオ)を3月に設立した。

 在学中に任意団体を立ち上げ、東京電力福島第1原発事故で被災した福島県双葉町を訪れるツアーの運営や町の地域ブランドづくりに取り組んだ。活動へのニーズを捉え、起業を決心。同町を中心に、世界各地への展開を見据える。

 青葉山ガレージを選んだ理由に、小林さんはキャンパスの環境や、法人登記手続きの助言などを含めたスタッフの支援体制を挙げる。「同居企業と横のつながりができることも貴重だ」と言う。

 実利もある。利用料は一般的なコワーキングスペースに比べて大幅に低い。住所に「東北大」と明示できる点も、外部からの信用を得る上でプラスになる。

 青葉山ガレージは、17年から続く起業家育成プロジェクト「東北大スタートアップガレージ」(TUSG)=?=の拠点の一つ。学内にはオフィスやラボタイプの居室を備える別の拠点もあるが、青葉山ガレージはコワーキングスペースで、ミニイベントや交流の場としても機能している。川内キャンパスにも情報発信のガレージがある。

[東北大スタートアップガレージ] 東北大と民間企業、中小基盤整備機構が連携して2017年、青葉山キャンパス内「東北大連携ビジネスインキュベータ(T-Biz)」で立ち上げた起業家育成プロジェクト。相談業務や資金調達支援などを通じて学内からの創業を後押しする。「ガレージ」は米国の巨大IT企業が車庫内で創業したという逸話に由来する。

 法人登記している10社は表の通り。4社は学生が在学中に興した。小型人工衛星の開発を目指すエレベーションスペース、農業用人工知能(AI)ロボット開発を進める輝翠(きすい)テックは、東北経済産業局と仙台市が選ぶ「J-スタートアップ東北」に名を連ねる。

 起業支援に当たる東北大スタートアップ事業化センターの担当者は、青葉山ガレージを「次のステージへ橋渡しする場」と表現する。それを支えたいという教職員らを含めたコミュニティーを形成し、起業家の育成を推進する方針だ。

青葉山ガレージに法人登記している10社

無人小型衛星開発のエレベーションスペース 本格サービスは2年早めて2026年から

 地球に帰還する無人小型人工衛星の開発に取り組む東北大発スタートアップのエレベーションスペース(仙台市)は21日、宇宙環境での実験、実証の機会を提供する本格的なサービスを2026年に始めると発表した。25年に打ち上げ予定の技術実証機に企業の利用希望が相次ぎ、予定を2年早めた。ニーズに応え、産業力強化に貢献する。

 同社が開発する人工衛星「ELS-R」の2号機がサービスを担う。重さ500キロ程度の機体を検討中で、技術実証用の初号機(200キロ級)に比べ大型になる。当初は1000キロ級を想定したが、開発を早めるためにサイズを抑える。

 初号機は大気圏再突入などの技術を確かめるための機体で、物品の搭載枠が21日までに完売した。顕微観察装置のIDDK(東京)、バイオベンチャーのユーグレナ(同)の2社の利用を予定していたが、さらに複数社から希望があり、積載可能上限に達した。

 エレベーションスペースは衛星を「宇宙環境利用・回収プラットフォーム」として、サービスを展開。材料や部品の性能を宇宙環境で検証する機会を提供する。同社は「宇宙環境での実証へのニーズは高い。取り組みを早め、宇宙産業への参入や技術の宇宙転用に貢献したい」と説明する。

大学発スタートアップ、学生比では多いけど… IPO数は全国平均の約半分 日銀仙台支店調査

 東北の大学は多くのスタートアップを生み出しているが、新規株式公開(IPO)が少ない-。日銀仙台支店は、創業数の割に地域経済への波及効果で伸び悩む東北の大学発スタートアップの現状と課題をリポートにまとめた。

 民間シンクタンクがまとめた2021年度の大学別創業数と直近の学生数を基に、仙台支店が独自に算出した学生100人当たりのスタートアップ数はグラフの通り。東北は最多の0・21社で、全国平均の0・12社を大きく上回った。

 大学別では会津大(2・87社)が全国2位、東北大(0・87社)が8位となった。21年度までの累計数は東北大が157社で全国6位と存在感を示した。

 多くのスタートアップを創出する東北の大学には、民間企業出身者を採用したり、ソフト・ハード両面で積極的な支援に取り組んだりしている共通点がみられた。

 具体的には、専門授業などでアントレプレナーシップ(起業家精神)の浸透を図ったり、低額か無料で利用できるオフィスや研究・実験設備を用意して資金負担を軽減したりしていた。開業相談窓口を設置している仙台市など行政による支援も背景の一つに挙がる。

 一方、IPOまでに至る割合(22年2月17日時点)は全国平均が1・94%に対し、東北は1・03%と大きく溝を開けられた。

 要因として経営者の多くは研究者や学生で、経営や事業戦略に関するノウハウに乏しいことを挙げた。IPO実績が多く経営ノウハウを持つ人材が集積する首都圏と比べて、東北は必要な人材を必要数確保することが困難なことも指摘。大学側に問題意識はあるが、予算や人手が限られ、企業の成長段階に応じた細やかな支援ができていない。

 仙台支店の担当者は、地域全体でサポートする必要性を指摘。スタートアップ同士の交流を活性化して新たな人脈を生むコミュニティーの形成、複数の大学が共同で事業マネジメントを行う専門組織や人材バンクの設立などを通じた人材確保の重要性を説いている。

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