東北出身の若手ユーチューバーらが、方言を前面に出す動画作品を相次いで配信している。標準語を部分的に方言らしく言い換える従来型ではなく、方言固有の表現や響きを効果的に使うのが特徴。「標準語よりも心に染みる」と視聴者に好評だ。
八戸市出身の姉妹でつくるユニット「ジンジャー姉妹」は瑛人のヒット曲「香水」の南部弁カバー作品を昨年8月、動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開。元恋人への切ない思いを「わんどはよ」(僕たちは)「のっつど」(たくさん)など、南部弁固有の言葉で歌い上げた。
「原曲の歌詞が広く知られているので標準語での解説を省き、ストレートに南部弁の響きを伝えようと考えた」。妹の湊山(みなとやま)はるさんが説明する。再生回数は5月末までに50万回を超え、「南部弁を知らないのに泣ける」などの書き込みが続く。
抑揚の雰囲気や単語の連なり方による難解さから、韓国語やフランス語に似ているとされる津軽弁。青森市出身のユーチューバー「すんたろす」さん(25)は、その特徴を検証する動画作品を公開している。
東北大在学中の2018年に制作した動画は、学園祭にK-POPアイドル風の服装で現れ、口にする津軽弁を周囲の人々に韓国語と信じ込ませる様子を収めた。ワイングラスを片手に仏映画風に津軽弁で会話する一人三役コントの動画もあり、津軽弁の語感をさまざまな趣向で伝える。
アニメの名シーン再現
「方言ネタ」も進化している。秋田県出身のお笑いコンビ「ねじ」は、アニメの名シーンを秋田弁のみで再現する漫才を公開した。
「アルプスの少女ハイジ」では、主人公の親友クララが初めて自力で立ち上がる場面で「おらのへじゃかぶ、がじゃめがねぐなってら」(私の膝、ぐらつかなくなったわ)と、濁音がリズミカルに続く秋田弁の力強い響きを生かした。
方言に対する若者の受容度は上昇している。ユーチューブでは「方言女子」を名乗る地方出身の若い女性が地元固有の言葉や習慣を解説する動画を投稿し、方言が話せることを魅力としてアピール。チャンネル登録が数万人の人気ユーチューバーも誕生している。
東北大方言研究センターの小林隆教授(方言学)は「日常生活では異質なものとなった方言を嘲笑の対象とせず、言葉の響きや温かみで自分の個性をアピールする『表現言語』として使い始めている。方言は恥ずかしいとされていた時代と隔世の感がある」と話す。