ドローンで撮影した動画を観光誘客につなげようと、東北運輸局が模索を続けている。スマートフォンでは撮れない「映える」動画を提供することで主にインバウンド(訪日客)の関心を引き付け、満足度の向上を狙う。将来的には観光客の依頼を受けた地元事業者による撮影サービスの展開も視野に入れる。
地元業者による撮影サービス展開も視野
宮城県白石市の観光名所、白石城で3月下旬、テスト撮影が行われた。天守閣から城下を眺める人の表情を捉えた後、離れながら蔵王連峰をバックに城全体を画角に収める。運輸局職員らは交流サイト(SNS)での発信を見据え、画角を調整し撮影を繰り返した。
テスト撮影を見守った白石市文化体育振興財団の橋谷田孝治理事長は「観光客にとってプレミアムな映像になる。SNSで拡散されれば、経費をかけずに宣伝効果が生まれるかもしれない」と期待した。
撮影には中国・DJI社製ドローンと建設コンサルタント会社ケー・シー・エス(東京)の空撮サービスを使用。同社によると、ドローンは設定したルートを飛び、カメラが被写体を自動で追尾する。操縦経験が浅くても、プロ並みの撮影ができるのが強みという。
新型コロナウイルスの5類移行に伴う観光需要の回復を見据え、運輸局は2023年7月に実証事業を始めた。これまでに猊鼻渓(げいびけい)(岩手県一関市)、最上川の舟下り(山形県戸沢村)など4カ所でテスト撮影を実施。観光地撮影のノウハウや課題を蓄積する。
運輸局によると、今年1月の東北の外国人宿泊者数(速報値)は22万810人。コロナ禍前の19年同月比で42・5%増となり、コロナ禍前を初めて上回った。訪日客の回復基調が鮮明になる中、ドローンの動画撮影を新たな需要の掘り起こしにつなげたい考えだ。
地元事業者のドローン撮影導入や、体験型観光と撮影サービスを組み合わせた旅行商品の造成を想定する。本年度は導入意向がある観光地で実証を重ねるが、安全管理や資格者の確保など課題も残る。
同局観光部の長沢秀博部長は「今までにないサービスを提供し、東北の旅行を高付加価値化したい。高額な費用をかけずに東北の魅力を世界に発信でき、うまくいけば観光事業者の収入源にもなる」と話す。