東北電力が2024年3月期連結決算で、過去最高の純利益1400億円を計上する見通しとなった。燃料費高騰で1275億円の純損失に陥った前期から一転、電気料金の引き上げ効果のほか、輸入燃料価格の上下動を自動調整する制度の影響が、利益を押し上げる。値上げを背景とした業績回復だけに、消費者からは厳しい視線が注がれる。 【グラフで詳しく】東北電の財務状況 東北電が7月末に公表した業績予想によると、経常損益が前期の1992億円の赤字から2000億円の黒字に転換する。 変動額3992億円のうち、前期の赤字分とほぼ同額の1910億円を穴埋めするのが、燃料費調整制度に基づく「期ずれ」。火力発電に使う燃料の平均価格はピークの2月から既に4割強も下落し、東北電も原油価格を前期比2割弱の下落と見通すが、調整制度で電気料金が自動的に下がる時期は3~5カ月遅れるため、その時間差で利益が生まれる構図になっている。 「期ずれ」を除く収支改善効果2082億円のうち、8割強の1772億円が電気料金の引き上げでもたらされる。昨年11月に工場や商業施設といった高圧・特別高圧、家庭や商店などの低圧の自由化部門、今年6月に低圧の規制部門で、いずれも値上げや料金の見直しを実施した結果だ。 残り2割弱の400億円は経営効率化で生み出す。昨年12月に営業運転を始めた発電効率が世界最高の上越火力発電所1号機(新潟県上越市、出力57万2000キロワット)の稼働率を上げ、液化天然ガス(LNG)などの燃料消費量を圧縮する。 低圧の規制部門の値上げを巡って、今年2月に経済産業省の公聴会で意見陳述した宮城県生協連の野崎和夫専務理事は「多くの消費者に影響を与えて、ここまで大きな利益を上げるとなると、国の審査会合はもっと厳しく査定して、値上げ幅を圧縮できたのではないかと思わざるを得ない。そうした検証が必要ではないか」と指摘する。 東北電は来年2月、女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)の再稼働を計画する。24年3月期は1カ月程度の試運転にとどまり、再稼働の増益効果は「数十億円程度」(東北電幹部)と限定的だが、来期はフル稼働を見込み、収益構造はさらに改善する見通しだ。 東北電は、燃料費高騰で料金収支が逆ざや状態に陥るなどし、過去2年間で傷んだ財務基盤の回復に利益を充てたい考え。 樋口康二郎社長は「6月の値上げ幅(平均25・47%)は今後3年間の前提条件を洗い出して設定された。直近の燃料価格が下がっていても、燃料費調整制度もあり、すぐに値下げの料金改定はできない」と話す。