東北電力は24日、家庭向け電気料金の規制料金について、平均32・94%の値上げを国に申請した。基本料金や電力量単価を改定する値上げ申請は2013年2月以来。値上げ幅は過去3番目に大きい。国の認可が不要な家庭向け自由料金も平均7・69%上げる方針で、ともに来年4月1日実施を予定する。ロシアのウクライナ侵攻などによる燃料費高騰の影響で大手電力が値上げ申請するのは初めて。
樋口康二郎社長は24日に仙台市内であった記者会見で「現行の電気料金収入では固定費を賄いきれない状況が続き、このままでは安定的な燃料調達や電力設備への投資を十分にできなくなる。大幅な値上げ申請で心苦しい限りだが理解してもらいたい」と述べた。
規制料金は基本料金と電力量単価をともに上げる。電力使用量を3段階に分け、多く使うほど値上げ幅は大きくなる。モデル事例(契約種別『従量電灯B』、契約電流30アンペア、使用電力量260キロワット時)の場合、2717円上がって月額1万1282円になる。
申請に当たり算定した燃料費、人件費などの総原価は23~25年の平均で2兆1636億円で、現在の料金設定の根拠である13~15年の1兆5067億円の約1・4倍に増加。その要因の大半を、燃料費の上昇と市場などを通じて電力を調達する費用の上昇が占める。
24年2月を予定する女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)の再稼働も原価の算定に織り込んだ。買う燃料が減らせるため年間1000億円程度のコスト低減につながるといい、樋口氏は「値上げ幅で約5%の抑制が図られる」とした。
値上げ幅を圧縮するため、1159億円の経営効率化も盛り込んだ。燃料調達の効率化など着手済みの取り組みに加え、新規採用の抑制による社員数の削減、火力発電所の定期点検周期の延長などを実施する。
申請内容は経済産業省の有識者会議が審査する。東北電の前回申請では総原価の算定が適正かどうかの議論を経て、実際の値上げ幅が圧縮された経緯がある。
家庭向け自由料金は燃料費調整制度に基づき燃料価格の変動を上限なしに反映させる仕組みに12月分から変わったため、規制料金より平均引き上げ幅は小さい。
安定供給へ苦渋の決断 樋口社長一問一答
家庭向け電気料金の値上げ申請を発表した樋口康二郎東北電力社長の一問一答は以下の通り。
-家庭に大きな負担となる。
「電気料金のみならず物価が上がっている中、引き上げは心苦しい限りだ。電力の安定供給のため、苦渋の決断と理解してほしい」
-経営効率化にどう取り組む。
「火力発電所の点検周期を延ばして修繕費を削減したり、スポット調達をなるべく減らして燃料費を抑えたりする。人員削減では営業所の集約化を検討する」
「役員報酬は既に業績連動で最大20%を減らし、企業向け料金の値上げで最大10%を自主返上している」
-他の大手電力も値上げ申請を予定している。
「他社との一番の違いは昨年、今年と2度にわたる福島県沖地震の発生。(複数の火力発電の)電源が脱落し、復旧費もかさんだ」
-電力自由化は事業者の競争で電気料金が下がるという触れ込みだった。
「今回のような燃料費の想定外の値上がりは、事業者が切磋琢磨(せっさたくま)したところでとても吸収できない。東北電は高いが新電力なら安いということはなく、現在は非常事態だと考えている」