「『自分の頭で考える』って、どういうことなんだろう?」「頭が良い人とバカな自分は、いったいどこが違うんだろう?」
偏差値35から東大を目指して必死に勉強しているのに、まったく成績が上がらず2浪してしまった西岡壱誠氏。彼はずっとそう思い悩み、東大に受かった友人たちに「恥を忍んで」勉強法や思考法を聞いて回ったといいます。
「東大生は『生まれつきの頭の良さ』以前に、『頭の使い方』が根本的に違いました。その『頭の使い方』を真似した結果、成績は急上昇し、僕も東大に合格することができたのです」
頭の良い人は、頭をどう使っているのか? 「自分の頭で考える」とは、どういうことなのか? 「頭の良い人」になるためには、どうすればいいのか?
そんな疑問に答える新刊『「考える技術」と「地頭力」がいっきに身につく 東大思考』が発売1カ月で10万部のベストセラーとなった西岡氏に、東大生に学んだ「頭を柔らかくする思考習慣」を解説してもらいました。
東大入試には「なぞなぞ」みたいな問題が出る
「頭が柔らかい人」って、憧れますよね。
思考が凝り固まった「頭の硬い人」よりも、やはり物事を柔軟に考えられて、いろんなアイデアを生み出すことができる「頭の柔らかい人」のほうがいい。多くの人がそう考えると思います。
でも実際に、「頭を柔らかくしたい!」と思っても、どうしたらいいのかわからないですよね。
実は東大入試では、頭が硬いと解けない問題が出題されることが多いです。東大は受験生に「頭の柔らかさ」を問い、その問いに正解した「頭の柔らかい人」が東大生になれるのです。
僕はもともと、そういう「頭の柔らかさ」が必要な問題が大の苦手で、東大入試に2回も不合格になった人間です。でも、東大に合格した友人たちに「頭の使い方」を教えてもらい、それを日常に取り入れることで、何とか東大に合格しました。
では、東大生はどうやって「頭の柔らかさ」を身につけているのでしょうか? 今日は東大の実際の問題を引用しながら、ご紹介したいと思います。
まず、多くの方が勘違いされているのですが、東大入試では重箱の隅をつつくような、難しくて細かい知識を問う問題は出題されません。それどころか、見る人によっては「なぞなぞ」のように感じてしまう問題が多く出題されているのです。
「ええ? 本当?」とお考えの人もいると思うので、実際に東大の問題を見てみましょう。
「頭の柔らかさ」が問われる東大の入試問題
2007年時点で、世界の鉛消費量は鉱石から生産された量の2.2倍になっている。このような現象がなぜ生じているのかを答えなさい。【2011年 東大地理第2問 一部改変】
生産量の2倍以上が消費されるというのは、よくわからない現象ですよね。生産された量以上に消費されるなんてありえるのでしょうか? そしてこの問題に答えられるような「頭の柔らかさ」を持つためには、どうすればいいのでしょうか?
結論から言うと、頭の柔らかい人とは「いろいろな目線」で物事を見る人のことだと僕は考えています。「1つの見方」に凝り固まってしまうのではなく、「複数の見方」で物事を見るようになると、頭が柔らかくなるのです。
例えば上の問題。「生産側」から考えれば、つくった以上のものが消費されるというのはありえない現象です。しかし「消費側」から考えると、自ずと答えは見えてきます。
僕らは、同じものを何度も消費することがあります。僕の祖母はよく昔使っていた服の生地を使ってハンカチをつくってくれますし、会社でも一度使った資料の裏紙にコピーすることがあるのではないでしょうか。消費側から見れば、そういう「リサイクル」は当たり前のことです。
そう考えれば、携帯電話やPCがリサイクルされ、もう一度その中の金属を利用することがあることに思い至ります。「鉛」は機械から回収されて、僕らはそれを2回、3回と繰り返して使っているのです。だからこそ、生産された量の2倍以上が消費されるという現象が起きるのです。
こんなことは、教科書や参考書には書いてありません。与えられた情報をもとにその場で考える「頭の柔らかさ」が求められているのです。
こんな問題もあります。
明治期には、砂糖の消費量が増加した。このような食生活の変容をもたらした要因は何か、答えなさい。【2003年 東大日本史第4問設問B 一部改変】
多くの人は「え? 鎖国が終わって西洋風の文化が入ってきたから、砂糖も多く用いるようになったんでしょ?」と考えると思うのですが、それは「消費側」の話でしかありません。実はそれ以上の理由があるのです。
西洋風の文化が入ってきたからといって、砂糖そのものがなければ食生活が大きく変わることはありません。実は鎖国が終わったことで、海外から砂糖を輸入できるようになったのです。特に砂糖の一大生産地である台湾を領有した1895年(明治28年)以降、砂糖の輸入はますます増えました。
このように、「消費側」だけでなく「生産側」の事情も書けていないと、この問題は点数が取れません。こんなふうに、「いろいろな角度から物事を見る」思考を、東大は求めているのです。
そして、これこそが頭が柔らかい人の特徴なのです。逆に1つの見方にこだわって、一方向からのみ見てしまっていると、「頭が硬い人」になってしまいます。
何か意見を言ったときに、こちらの側に立って考えてくれないで、自分の立場の主張だけをする人って、頭が硬い人という印象がありますよね。
それに対して、「頭が柔らかい」と言われる人は、「あなたの考えもよくわかります」と相手の立場に立ったうえで、いろいろなことを考えてくれる人のことを言うのではないでしょうか。いろいろな方向から物事を見て、いろいろな立場に立って考えられることこそが、「頭が柔らかい人」の特徴なのです。
「頭を柔らかくする」東大生の習慣
では、このようにいろいろな角度から物事を見られるようになるには、どんなことをすればいいのでしょうか?
東大生にインタビューして見えてきたのは、「あえて自分と反対の立場になってみる」という思考習慣です。
例えば、何かの論題に対して賛成の意見を持っているときに、あえて反対の意見を考えてみます。「社内のオンライン推進」という議題があったときに、あなたが賛成しているのであれば、あえて逆のことを考えて「社内のオンライン推進を反対する人って、どんなことを考えているんだろう?」「どんな理由で、反対しているんだろうか?」と真剣に思考するのです。
これは東大生の中ではポピュラーな勉強法です。東大の入試問題などでも「この意見に賛成か反対か選んで答えなさい」という問題がよく出題されるのですが、その過去問を解くときに、あえて自分の本当の立場とは逆の立場で問題を解く訓練をしていたという学生は非常に多いです。
また、「逆の立場」というのは「賛成・反対」だけではありません。世の中にはいろんな立場の対立があります。急進派と穏健派、右派と左派、大人と子ども、読み手と書き手、生産者と消費者、問題を解く人と出題する人……。
人は通常、どちらか一方の立場にしか立てないものです。しかし、だからこそ、自分の今の立場と反対側の立場で真剣に考えてみるのです。
レストランに入ったときにお客さんとしてではなく、そこで働く人や経営者の立場に立って考えてみる。本を読むときに、その本を書いた人の気持ちになって考えてみる。話すときに、聞く人の気持ちを考えてみる。ニュースに怒りを覚えたら「何かどうしようもない事情があったんじゃないか」と考えてみる。
普段からそんなふうに考える習慣がある人は、頭が柔らかい人になれるのです。
東大入試でも、この思考プロセスを推奨している問題があります。
次の文章は、数年前の東京大学入学試験における、日本史の設問の一部と、その際、受験生が書いた答案の一例である。当時、日本史を受験した多くのものが、これと同じような答案を提出したが、採点にあたっては、低い評点しか与えられなかった。なぜ低い評点しか与えられなかったかを考え、(その理由は書く必要がない)、設問に対する新しい解答を5行以内で記せ。(1983年 東大日本史第1問)
「点数を低くつけなければならなかった理由を考えなさい」。すごく型破りな問題ですね。
なんでこんな問題が出題されたのかを考えると、問題を解く受験生に対して、「出題者」「採点者」の側に立って問題を解くことを推奨したのだと解釈できます。受験生の反対側にいる、採点者の立場で考えることができるかを問う問題だったのです。
他にも、「最近は頻繁に市町村合併が行われているが、それによって困る立場の人のことを考えて答えなさい」とか「この学説に対する反対意見を答えなさい」とか、そんなふうに「逆の立場」で物事を見る姿勢を求める問題がかなり多く出題されています。
日常のあらゆることの「裏側」を考える
自分以外の立場に立って物事を考えてみるのは非常に難しいですが、だからこそ普段からこれを意識しておけば、硬かった頭がどんどん柔らかくなっていくと思います。
僕もはじめはこの思考が身につかず、例に挙げた入試問題も解けない、頭の硬い人間でした。そんな中で心掛けたのは、「反対側はなんだろう?」と、日常のあらゆることの「裏側」を意識することでした。
例えば「70%の人が効果を実感している!」と書かれている広告を見たら、「逆に30%の人は効果を実感していないんだよな」と考えてみるのです。情報をそのまま受け入れるのではなく、あえて真逆の情報として受け入れてみて、そのうえで「じゃあ、どうして30%は効果を実感しなかったんだろう?」と裏側を深掘りして考えていくわけです。
同じ情報も、見方によって見えるものがまったく違ってきます。そのことを普段から意識すると、どんどん頭が柔らかくなっていくと思います。
いかがでしょうか? 「頭が硬い」とお悩みの方は、ぜひ少しでも参考にしていただければ幸いです!