東急グループが「空港運営」に情熱を注ぐ理由

「仙台は海外とのゲートウェイになる」。11月20日に東京都内で開催した東急グループの記者懇談会で、東急電鉄の野本弘文社長は意気揚々とこう語った。

東北の空の玄関、仙台空港は年間323万人が利用する国内10位の空港だ。ただ、費用が収入を上回り、2013年度は29億円の営業赤字と、経営状況は芳しくない。空港運営の立て直しに向け、2016年6月末に民営化することが決まっている。

今年9月には、東急グループなど7社で構成されるコンソーシアム(企業連合)が国土交通省から運営委託の優先交渉権者に選ばれた。12月早々にも同省と実施契約を締結する。

野本社長の意気込みは、空港運営のための特定目的会社(SPC)の名前を「仙台国際空港」としたことからも見て取れる。空港名を「仙台国際空港」に改称し、国際色を鮮明にしていくのは十分ありうる話だ。

「仙台空港は東北6県の基幹インフラで、交流人口拡大のチャンスがある。東日本大震災の復興にも寄与したい」(東急電鉄の担当者)

国内空港網の拠点として国が管理する空港は、国内に19ある。そのうち、福岡空港や高松空港などで民営化が検討されており、仙台空港はその第1号案件とな る。現在は国が管制塔や滑走路を、第三セクターがターミナルビルを管理しているが、管制塔を除くすべての運営権をまとめて民間に委託する。

2014年12月に運営権を受託するコンソーシアムを募集したところ、4つの陣営が応募した。三菱商事と楽天による「三菱商事・楽天仙台空港プロジェクト チーム」、三菱地所・仙台放送・ANAなど5社で構成される「MJTs」、イオンモールや熊谷組で構成される「イオン・熊谷グループ」、そして、東急電鉄 を中心とした東急5社と前田建設工業・豊田通商で構成される「東急前田豊通グループ」である。

三菱商事・楽天陣営では、三菱商事が国産ジェット機「MRJ」を開発した三菱航空機の第2位株主。同機を活用したビジネスに意欲を燃やしている。楽天も、 マレーシアのLCC(格安航空会社)、エアアジアの日本法人に出資する。何より楽天は、仙台を本拠地とするプロ野球チーム「東北楽天ゴールデンイーグル ス」を抱えており、地元とのつながりが深いという強みもあった。

地元という点では、仙台放送が参画した三菱地所・ANA陣営も負けていなかった。航空事業者であるANAや、羽田空港旅客ターミナルビルを運営する日本空港ビルディングも、構成員に名を連ねていることに安心感もあった。

イオン・熊谷組陣営は、イオンモールの商業施設開発のノウハウを空港ビジネスにも生かしたい構え。仙台空港と仙台駅を結ぶ第三セクター鉄道、仙台空港アク セス線沿いでもショッピングモールを運営している。熊谷組は仙台空港の新旅客ターミナルを建設した。東日本大震災で被災した施設を迅速に復旧したことで話 題になった。

これに対して東急陣営は、東急コミュニティー が北九州空港ターミナルビルの管理業務を受託しているほか、東急エージェンシーは成田国際空港、新千歳空港、中部国際空港などで空港広告を多数手掛けてき た。また、前田建設は羽田D滑走路や香港国際空港などを携わっており、豊田通商はラオスで空港国際線ターミナル運営の実績があった。

事業者選定のポイントは、全体の事業方針や将来方針だった。特に、空港をどのように活性化するか、どのように収益を確保するかといったことが重視された。

第一次審査の結果は、東急陣営がトップ。以下、イオン・熊谷組陣営、三菱地所・ANA陣営、三菱商事・楽天陣営の順だった。

1位の東急陣営は、どの項目もおしなべて平均以上の評価を獲得した。一方、4位の三菱商事・楽天陣営は、地域との連携に関する提案事業方針で高い評価を得 たものの、旅客者増加策や着陸料設定などの空港活性化方針、安全・保安に関する方針、職員の取り扱い方針といった項目で評価が伸び悩んだ。

国交省は4陣営すべてが第一次審査を合格したと発表したが、三菱商事・楽天陣営は第二次審査に応募しなかった。

 残る3陣営で争われた第二次審査は、各案の具体性や実現可能性を中心に審査が行われた。東急陣営は、国際線を中心に利用者を増やし、現在324万人の旅客数を2020年度には410万人、2044年度には550万人に増やしたいという目標を掲げた。

オフシーズンなどの旅客減少期には着陸料を軽減し、航空会社の料金負担を減らすほか、新規就航時にも割引を行うことで航空会社を呼びこむ構えだ。また、約342億円の設備投資を行い、空港ターミナルビルを改修するほか、駐機数や搭乗ゲートも増やす。

LCC対応にも力を入れ、北京、上海、台湾など4時間圏の直行便を拡充。LCC向け旅客搭乗施設も新設し、現在16%にとどまる全旅客数に占めるLCC旅客数の比率を、30年後には50%近くまで高めたいという。

空港アクセスは、鉄道会社である東急の得意分野。現行の仙台空港アクセス線の利便性を高め、仙台駅での新幹線との乗り継ぎを容易にし、東北各地や首都圏との行き来を活発化したいとした。

東急案は旅客数の目標値、空港利用者の利便性、設備投資といった項目で高い評価を獲得し、第一次審査に続き第二次審査でもトップに立った。

国交省が公表した審査講評によれば、コンセプトが具体的か、提案は実現可能か、将来像が明確にイメージできるか、がポイントとなった。設備投資額や運営権対価の多寡、資金調達の確実性も審査の対象とされた。

東急陣営は運営権対価として22億円を提示。三菱地所・ANA陣営は運営権対価の額で最も高い評価を獲得したが、トータルでは東急陣営にあと一歩及ばなかった。

今後は、12月に実施契約を締結した後で業務をスタート。来年2月にターミナルビル施設事業を開始し、6月までに業務の引き継ぎを終える予定だ。

かつて東急は系列企業に航空会社を有していた。日本エアシステム(JAS)である。一時は日本航空(JAL)、全日本空輸(ANA)に次ぐ第三極の地位を確立したが、2000年代に入り、経営難からJALに実質的に吸収されてしまった。

今回の空港運営ビジネスへの進出は、撤退を余儀なくされた航空ビジネスへのこだわりを表しているものなのだろうか。この点について、東急の多くの関係者が 「まったく関係ない」と否定した。とはいえ、「(グループ内に)JASがあったために、グループ各社が空港ビジネスに力を入れたという面はあるかもしれな い」との発言もあった。

仙台空港の民営化が軌道に乗れば、次の空港民営化案件に手を挙げる可能性はあるのか。東急電鉄の高橋和夫常務は「空港運営事業を立ち上げるからには、やらないほうがおかしい」と、極めて前向きだ。

ただ、東急が他案件に進出するのかどうか、そもそも、ほかの空港で民営化プロセスが進むか否かも、仙台空港の成否次第。それだけに、杜の都で失敗は許されない。

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