東日本大震災:福島市コメ高線量 「国の検査、何だった」 農家に動揺広がる

 「国の検査は一体何だったのか」。暫定規制値(1キロ当たり500ベクレル)を超えるコメの放射性セシウム汚染が初めて福島市で判明した16日、産地に動揺が広がった。農林水産省は収穫前後のダブルチェックで「汚染米は出さない」と自信を見せてきたが、検査態勢が十分だったのか改めて問われそうだ。
 汚染米が見つかった福島市大波地区。70代の農業の女性は、70袋(1袋30キロ)の新米を収穫したばかり。毎年、新米を全量20~30人の知人に売ってきたが、今年は買いたいという知人はおらず、すべて農協に出すつもりだったという。「コメが売れなくなって本当に困る。何度もサンプル調査に協力してきたのに」と、農水省への不信感をあらわにした。
 夫(61)と一緒に収穫を終えた兼業農家の女性(54)は「今年は約100袋出荷した。この時期が年に一度の勝負どころなのに、今後出荷できなくなると大変困る」と不安を口にし、「春先に大丈夫と言われて作付けし、検査でも出荷していいと言われて安心していた。来年に影響するし、もし出荷できないとなると生活にも大きく響く」と訴えた。
 農水省は、情報が入った16日夕から事実関係の確認に追われた。630ベクレルという高い数値について、担当者は「これから調査が行われるだろうから断定はできないが、ホットスポット的な現象かもしれない」とし、予備検査で規制値と同じ500ベクレルを検出した福島県二本松市小浜地区のケースと類似する可能性を指摘している。
 今年産のコメについて政府は4月、警戒区域などを対象に作付け制限を実施。さらに、収穫前後の2段階の検査で汚染米の出荷を水際で食い止める態勢を敷いていた。県による2段階の検査はいずれも終了し、暫定規制値を超えるセシウムは検出されなかった。
 県によると、JA全農福島や各JAは県の検査で放射性セシウムが検出された場合、規制値を超えなくても旧市町村単位で出荷を見合わせる措置を徹底しているという。大波地区の農家は154戸、コメの作付面積は42ヘクタール、生産量は192トン。今年の新米について86戸を調べたところ、JA新ふくしまに57・6トンが出荷されたほか、地元米穀店などに4戸が計1トンを販売。このほか自家保有36トン、知人などに送る縁故米8トン--となっている。
 専門家によると、玄米のセシウムは精米すると約6割が除去される。厚生労働省は「食べても直ちに健康に影響はない」としている。【川上晃弘、長田舞子、曽田拓】

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