東日本大震災の津波で被災した宮城県東松島市の小野、野蒜、宮戸3地域の歴史や文化を伝える地域誌「奥松島物語」の第4号が刊行された。1950年代まで続いた塩作りの歩みを特集し、住民が語る震災前の思い出なども取り上げている。
震災前の思い出も
編集、発行したのは、地域社会史研究者の西脇千瀬さん(52)=仙台市太白区=と、「野蒜築港ファンクラブ」事務局長の松川清子さん(74)=東松島市=の2人による「奥松島物語プロジェクト」。民俗学者の赤坂憲雄さんが監修した。
西脇さんは、地域における製塩の変遷を掘り下げた。海水が行き来する松島の低地は塩田に適した。縄文時代の製塩遺跡があり、塩釜神社に近い松島湾と塩との、つながりの深さも説く。松川さんは、塩田開発などを伝える江戸-大正期の石碑を通じ、製塩と地域振興の関わりを探った。
同誌は2013年創刊。15年の第3号以来、9年ぶりに刊行した。聞き書きや回想で震災前の地域の様子に関する住民の声を伝え、当時の様子が分かる写真も数多く掲載する。「震災前の地域で暮らした実感や感情を次代に伝えるのは難しく、文字で残す意義は大きい」と松川さん。西脇さんは「震災から一定の時を経た今、地域の魅力を見直すきっかけになればうれしい」と話した。
A5判、80ページ。1100円。東松島市震災復興伝承館などで販売。連絡先は荒蝦夷022(298)8455。