松屋の魅力は券売機!? 人手不足時代に吉野家とすき家が導入しない理由とは

「食券制が松屋の魅力」「会計を待たなくていいから、食べ終わったらすぐ帰れる」――こんな基準で牛丼チェーンを選ぶ人もいるのでは。

【画像】都内で320円の牛めしを売る珍しい松屋

 松屋はほぼ全店で券売機を導入しているのに対し、吉野家とすき家では店員が注文を聞いて会計も行うスタイルにこだわっていた。また、大手ラーメンチェーンの日高屋が券売機の導入を本格的に進める方針を打ち出している。

 外食チェーンにとって、券売機とはどのような存在なのだろうか。券売機のメリットとデメリット

 券売機を導入する一般的なメリットとデメリットはなんだろうか。飲食店コンサルタントで、スリーウェルマネジメントの三ツ井創太郎社長は次のように指摘する。

 券売機導入のメリット

・従業員の不正を防止できる
・釣銭の渡し間違えを防止できる
・レジ業務が不要になり、人員の効率化が図れる
・ボタンの配置や位置などによってオーダーコントロール(セットメニュー誘導による客単価アップ)ができる
・お客が自分で商品を選ぶため、オーダーミス(聞き間違い)を防止できる
・販売データが取得できるため、さまざまなマーケティング分析が可能になる(POSレジがあれば券売機でなくても可能)

 券売機導入のデメリット

・会計業務がないため、顧客接点が減り、サービス力の低下が懸念される
・前会計のため、ピークタイムには券売機前の渋滞が発生し、機会ロスにつながる恐れがある(店内が混んでいると勘違いされる)
・導入コストが掛かる
・追加オーダーを獲得することが難しい

 また、三ツ井氏は券売機が向く業態と向かない業態があると指摘する。

 「ラーメン、かつ丼、牛丼など追加オーダーがない業態は券売機との親和性が高いです。一方、居酒屋やレストランのように、ドリンクやデザートなどの追加オーダーを獲得することで客単価アップを実現している業態は、券売機が向きません。接客力に対しての期待値が高い業態でも、券売機は向きませんね」

日高屋が券売機の導入を本格検討する理由

 さて、一般的な券売機導入のメリット、デメリットを踏まえたうえで、大手チェーンがどのように対応しているのか見てみよう。

 日高屋は19年3月~20年2月にかけて券売機を試験的に導入する予定だ。19年2月以降に新規オープンする店舗には券売機を原則的に配置するだけでなく、既存店でも少しずつ導入していくという。

 日高屋は店員が注文を聞いて会計も済ますというスタイルを貫いてきたが、10年以上前に券売機を試験的に導入したことがある。しかし、アルコールを中心に売り上げが落ちたため、本格的に活用するまでには至らなかった。広報担当者は「食事をしながらお酒を飲んでいるお客さまが、追加のお酒を注文しようとした際、わざわざ券売機まで行くのが面倒に感じたことが原因の1つだったのではないでしょうか」と振り返る。日高屋の売り上げに占めるアルコールの割合は2割弱となっているので、券売機による売り上げ減少の影響は無視できないものだったわけだ。

 今回、券売機を導入する背景にあるのは深刻な人手不足だ。店舗の生産性を上げるためには必要なアイテムだと判断した。また、「売上高に占めるアルコールの比率がやや落ちています」(広報担当者)というトレンドもある。店で何杯もアルコールを追加注文するお客が減りつつあるので、券売機を導入する悪影響は以前より少なくなってきていると判断したようだ。吉野家が店員の接客にこだわる理由

 では、吉野家のケースを見てみよう。これまで試験的に券売機を導入したことはあるが、現在はどの店舗にも置いてないという。

 経済誌『プレジデント』(07年10月1日号)のインタビューで、吉野家の安部修仁社長(当時)は「(労働生産性を追求する観点から)本来、券売機は必然の道具です。しかし、非常に矛盾に満ちたことではあるけれど、券売機を置かないことで大事にしたいことがあるんですよ」と述べている。

 券売機を置くことで「ご注文は何にいたしますか」という接客用語だけでなく、代金の受け渡しという接客行為も減ってしまう。お客と店員が目をあわせなくても、お茶の量が減っていればお茶をつぎ足したり、お客が食後に飲む薬を取り出そうとした場合には水をさっと出したりといったように、客の動きから求められるサービスを察知することが大事だという。また、安部社長は「牛丼を食べる刹那的な時間ではあるけれど、こうした、お客さんとのメンタルなつながりを大事にしていきたい」とも述べている(関連記事:なぜ、「券売機」を置かないのか:吉野家式会計学 3)。

 吉野家の広報担当者に尋ねると、現在も券売機を置かない理由には当時の安部社長が掲げた理念も影響しているという。

 そうは言っても、店舗の効率化は避けては通れない課題になっている。現在、吉野家ではお客がレジで注文し、出来上がった商品を自分で取りに行く「キャッシュ&キャリー」型店舗を30店近く展開しており、今後もその数を増やす予定だ。

すき家が券売機を導入しない理由

 それではすき家はどうだろうか。席数が多くない店舗や一部実験店舗では、券売機を置いているという。ただし、その数はごくわずかで、ほとんどの店舗には設置していない。

 券売機を導入しない理由について広報担当者は「(主力である)郊外の店舗には家族連れのお客さまが多く来店するため」と説明する。すき家にとって一番のターゲットであるファミリー層の満足度を上げるためには、店員が接客するのが望ましい。しかも、デザートやドリンクを追加で注文してもらいやすい環境をつくるには、券売機は向かないという判断だ。つまり、ビジネスモデルから必然的に券売機なしというスタイルを導き出したのだ。松屋が券売機にこだわる理由

 すき家や吉野家と対照的なのが松屋だ。「サテライト店舗」と呼ばれる弁当のみの販売を行う店舗では、券売機を置いていないという。ただそれはあくまで例外で、それ以外の店には券売機が置いてある。

 では、松屋はなぜ券売機を導入しているのだろうか。広報担当者は一般的な券売機導入のメリットに加え、「現金以外の決済が可能(実際、2月19日にQRコード決済をスタートした)」「オーダーをお聞きする時間を短縮することができる」「従業員がお金に触ることがないので衛生的」を理由として挙げた。

 実際、都内にある松屋の券売機を見ると、QRコードをかざす装置がついており、スマートフォンを持ったイラストと一緒に「クーポンはこちらから」「QRコード決済」と強調されている。また、交通系ICカードの「Suica」が使えるポップもついており、スピーディーな決済を済ませたいお客へのアピールに余念がないようにみえる。まとめると、松屋は決済や注文を効率化させることを重視しているといえそうだ。

 ただ、券売機を導入することで、悩ましい問題も出ているという。広報担当者は、券売機導入のデメリットとして「設置場所が必要なため、席数などを犠牲にすることもある」「レジ会計の特殊対応教育に時間がかかる」ことを挙げた。さらに、松屋では2週間に1度新メニューを導入しているため、券売機の画面表示の切り替えが多くなり、食べたいメニューにたどり着くまでに時間がかかってしまうという課題も認識しているようだ。そのため、券売機の操作に慣れるのが難しいと考える高齢のお客もいるという認識を示した。

 このように、券売機を巡るスタンスを比較することで、顧客満足やサービスをどのように各社が捉えているのかが浮き彫りになった。深刻な人材不足で今後も券売機の導入を検討するチェーンは増えるかもしれないが、逆に導入しないことで接客サービスを売りにすることをアピールするチェーンも出てくるかもしれない。

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