札幌圏の寺が、盆や彼岸での参拝者が減るなど、市民の「寺離れ」に危機感を募らせている。核家族化などで寺を訪れる機会がほとんどない人が増える中、 「まずは足を運んでもらい、寺を身近に感じてほしい」と、ヨガやコンサートなどのイベントを本堂や敷地などで開く取り組みが目立ってきた。
金色に輝く本尊を前に、女性たちが音楽に合わせさまざまなポーズを取る。札幌市北区麻生町の覚王寺(かくおうじ)で開かれる月2回の「お寺でヨガ」。2月 中旬、約40人が本堂で1時間半のヨガを楽しんでいた。北区の主婦藤山佳子さん(68)は「いつも前を通っていたけど、ヨガに参加するまでこの寺に入った ことはなかった。天井画がきれいで落ち着く」と満足そうだ。
同寺では2012年4月から1回500円でヨガ教室を開き、昨秋は落語寄席も開催。今年4月からペン習字教室も月1回行う。これらのイベントを開く背景には、寺の参拝者が減ったことへの危機感がある。
近年は葬式を葬儀場で行うのが主流となり、同寺でも葬式は10年前は年間50件以上だったが、最近は1、2件に激減。盆や彼岸の法要参拝者も2~3割減っ た。内平淳一副住職(32)は「将来の檀家(だんか)減少は避けられない。檀家以外の人にも広く寺を利用してもらい、寺が生き残るために、イベントをきっ かけに足を運んでもらおうと思った」と話す。
檀家はそれぞれが属する寺に葬祭などを任せる一方、布施や年会費を納め寺の運営を支えてきた。だが、近年核家族化の進行、少子化などで檀家が減少、宗教法人を解散し寺を廃止する「廃寺」が出始めている。
石狩振興局などによると、石狩管内でも2009年に北広島市内の寺が宗教法人を解散、別の寺に吸収合併された。札幌などの都市部でも参拝者が減少しているため、5年ほど前から、地域住民向けにさまざまなイベントを行う寺が増えてきた。
札幌市北区新琴似の浄光寺(じょうこうじ)でも、昨年から月2回のヨガや化粧教室を開催。口コミで参加者が増え、ヨガには毎回20人ほどが参加。青山直樹 住職(40)は「黙っていても檀家が来てくれた時代は終わった。こちらから情報発信し、年に1回でも寺の法要に足を運んでもらいたい」と言う。
千歳市の千正寺(せんしょうじ)では4年前から本堂を音楽団体のライブ会場として提供。「市内に多く暮らす自衛隊員や家族にイベントを通じて寺に親しみ、 転勤先でもその土地の寺を頼ってほしい」(同寺)との思いがあるという。1年半前から始めた着付け教室の参加者は、寺のバザーなどの行事を手伝ってくれる ようになった。
5年前から「歌声喫茶」を月1回開いている札幌市豊平区の福住寺(ふくじゅうじ)の長尾光洋住職(63)は「『無縁化』する社会の中で、地域の人と知り合って楽しむ場所を提供しようと思った」。
寺の経営や戦略を学ぶ「未来の住職塾」を各地で開く社団法人「お寺の未来」(東京)代表理事の松本紹圭(しょうけい)さん(35)=小樽出身=は「寺は地 域住民が集まる場所としての機能を果たすことで、1人暮らしの高齢者や貧困家庭を見守り、安否確認などの機能も果たせるのではないか」と強調している。 (本郷由美子)