利用低迷に悩む関西国際空港(関空)で格安航空会社(LCC)の進出拡大の機運が高まりつつあることに、対岸自治体の大阪府泉佐野市が熱い視線を送っている。関空会社と市の間には、関空2期島の固定資産税をめぐって“不協和音”があるが、深刻な財政難にあえぐ市側には、LCC進出による2期島の本格運用が税収アップにつながることへの期待感がある。ただ、不透明な要素も多く、市側の単なる「皮算用」となる不安も消えていない。
■浮揚への光明
関空の平成21年度の旅客数は、開港翌年度以降で最低の約1352万人。ピーク時(12年度)の66%の水準にとどまっている。
一方、泉佐野市は関空開港に合わせた膨大な公共投資のしわ寄せなどで財政が悪化し、21年度には財政破綻(はたん)への“黄信号”となる早期健全化団体に。財政再建が進まなければ数年内に“赤信号”の財政再生団体に転落する可能性もある。
関空会社は、活性化策の一環として、徹底した効率化による低価格設定で世界的に勢いを増しているLCCの誘致促進を強化。現在、国内の空港で最多の5社7路線が就航している。
さらに9月、全日空が香港の投資会社と共同で関空を拠点とするLCCの設立を発表。4~5年後に年間600万人の利用を見込んでおり、浮揚への光明として期待が高まっている。
■くすぶる遺恨
LCCの進出拡大に泉佐野市が注目する背景に、ともに台所事情が厳しい関空会社との間でくすぶる課税をめぐる「遺恨」がある。
関空の2期島は19年、計画面積545ヘクタールのうち、第2滑走路を含む最低限必要な290ヘクタールに限定して供用を開始。将来的に旅客ターミナルビルや駐機場用地として見込む230ヘクタールは「埋め立て中」、25ヘクタールは「未着工」と分類される。
空港島はエリアごとに泉佐野市、田尻町、泉南市という対岸3市町域に分かれており、関空会社は、限定供用部分について土地だけで年約6億円の固定資産税を納付。「埋め立て中」の部分も東側の護岸を数メートルかさ上げする工事を除いて完成に近づいているが、同社は「土地利用の見通しが立っていない」として完工を見送っており、税がかからない状態が続いている。
一方、20年には空港島と対岸を結ぶ連絡橋が国有化され、泉佐野市は年約8億円の税収を喪失。対抗策として通行車両から「入島税」を取る構えをみせた。
当惑した国土交通省は21年2月、2期島について「22年中の完成に努める」とする誓約書を市に提出。だが同社は「あくまで国交省と泉佐野市の間の約束」として22年中には完成させない方針だ。これに対し、市側は、利用実態があれば都道府県の完成認可前でも課税できる「みなし課税」で対抗する姿勢も示しており、両者の対立が先鋭化する心配もある。
■期待と戸惑い
泉佐野市側は、LCCの進出拡大で「埋め立て中」部分の完成が早まることに期待をかける。全日空系のLCC設立を受け、関空会社は専用ターミナルを建設する方針で、用地として有力視される2期島に上物が建つことになれば、税収が膨らむ可能性もある。
ただ「ターミナルが泉佐野市域に建つとは限らない」(関係者)との見方もあり、同市にどれだけ恩恵があるのかは不透明だ。
市幹部は「LCC進出は大賛成だし、2期島の拡大供用につながればありがたい」と話す一方、「全体像が見えない中で喜んでばかりもいられない」と不安も抱えている。