2012年に亡くなった歌手の桑名正博さん(享年59)の長男だと偽ってラジオ番組に出演したり、飲食店で歌を披露し“おひねり”を受け取る謎の男性が全国各地に出没していたことが13日、分かった。
桑名さんの長男で歌手の美勇士(みゅうじ、37)はスポニチ本紙の取材に「桑名を愛してくれる人の思いにつけ込む行動で、冗談ではすまない」と憤り「被害に遭われた方は、警察に被害届を出してください」と呼びかけた。
謎の男性は、長髪を後ろで縛って口ひげを生やし、背中に「全国行脚中」と書いた服を着て各地に出没。「桑名正博の長男で、乃羅(のら)です」と名乗り、福島県の地元FM局の番組や、三重県四日市市の飲食店などで桑名さんの名曲「セクシャルバイオレットNo・1」などを歌った。
四日市市では、客から“おひねり”を受け取ったことが分かっている。インターネット上ではほかにも同様の被害を訴える書き込みが多数ある。
男性は11月に沖縄県に出没。現場に居合わせた桑名さんの知人がすぐ「偽者」と気づき、身元を特定し接触。ともに警察署に出頭した。しかし男性は一連の行動を否認。被害届の提出もなかったため逮捕に至らなかったという。
桑名さんの妻で美勇士の義母の栄子さん(55)によると、長男を偽る人物の存在は約1年前に把握していたが「“そのうちやめてくれたら”と静観していた」という。しかし謎の男性を警察に出頭させた知人の報告を受け対応を協議。11月からSNSで注意喚起を活発化したという。
当初は遺族の立場から「死者に対する名誉毀損(きそん)」で提訴することも検討したが「ラジオで話している内容などをみても、毀損に値しないと判断された」と断念した。
美勇士は、福島県のFM局が公開した収録動画で男性を見たといい「共通点はほお骨が出てるくらいで、自分では似てると思わないが、弟は“確かに似てる”と言った」と話した。「被害に遭われた方もいるので、あまりちゃかしてはいけませんが、せめて歌はもっとちゃんと歌ってほしかった」と苦笑している。
《自分は隠し子》9月上旬に三重県四日市市の沖縄料理店で男性と会った同市の美容院勤務、位田美紀子さんによると、男性は「沖縄から日本一周」と書かれたリュックを背負って入店。自ら「お父さんは桑名正博。隠し子が2人いてそのうちの1人が自分だ。母は銀座のホステスだ」などと言っていたという。居合わせた客の要望に応じて「セクシャルバイオレットNo・1」を歌った際は、ビンを目の前において“おひねり”を要求。位田さんが入れた1000円を含め5000円前後が入った。食事もごちそうになっていたという。
▼フラクタル法律事務所・田村勇人弁護士 自分が桑名さんの隠し子だと語ること自体は美勇士さんら親族を直接傷つけるものではないため、名誉毀損は成立しにくい。一方「桑名さんの息子」という前提で金品や食事の提供があったのであれば、詐欺罪が成立する可能性は高い。本人の戸籍などで親子関係を調べれば、虚偽かどうかは証明できる。