検温カメラに顔画像、転売品に900点保存の例も…購入者「出品者は気づいていないのでは」

 新型コロナウイルス対策で検温に使われたサーマルカメラから顔画像が漏えいしている。ネット上のフリーマーケットで転売された中古品では、1台で1000点近い画像が見つかった事例もある。個人データを消去しないままの転売や廃棄は個人情報保護法に抵触する恐れがあり、サーマルカメラの業界団体は「個人情報をきちんと消去してほしい」と注意を呼びかけている。 【写真】新型コロナの感染拡大でさまざまな施設で行われた検温

葬儀場で使用?

(写真:読売新聞)

 サーマルカメラとケーブルで接続したパソコンの画面に、910点もの顔画像が表示された。工事現場で撮影されたのだろうか、頭にタオルを巻いた職人風の男性やヘルメット姿の人も。別の1台は葬儀場に設置されていたとみられ、約800点の画像の大半は喪服姿で、制服を着た子どもの顔も写っていた。

 2台は東亜産業(東京)が販売した製品で、システム開発会社のエンジニア・新妻浩光氏(41)が、フリーマーケットアプリ大手メルカリで購入し、大量の顔画像が保管されていることに気づいた。パソコンの画面には、体温や測定日時とともに顔画像が並び、発熱者を検索して探し出すこともできた。

 「検温目的のはずのサーマルカメラから、まさか大量の顔画像が出てくるとは……」。新妻氏はそう語る。この製品には顔の撮影や記録のための操作画面はなく、取扱説明書にも書かれていない。個人情報保護法では、顔画像は氏名や生年月日などと同様に個人情報に位置づけられるが、「出品者は、カメラに顔画像が記録されていることに気づいていなかったのでは」と指摘する。

 東亜産業のカスタマーセンターは読売新聞の取材に、「発熱を検知した際に警告音が鳴る機能のみで、顔画像を撮影・記録・消去する機能はない」と説明した。

 その後、「確認したところ、顔画像を記録する機能などが備わっていた」と回答を修正。そうした機能を購入者に説明せず、消去する手段も用意していないことについては、「転売・廃棄は想定していなかった」と主張した。同社は該当する製品の製造台数は「非公表」としている。

買い戻し交渉も

 中古市場には使用済みのサーマルカメラが売り出され、メルカリには東亜産業の同機種も直近で約70台が出品されていた。コロナ禍が収束に向かう中で、今後さらに中古品が出回ることも予想される。

 同社製の別の機種をショールームの来店客に使っていた広島県内の自動車ディーラーは5月、インターネットオークションでカメラを売却。説明書には顔画像を記録している旨が記載されていたが、消去方法は書かれておらず、「深く考えずに転売してしまった」という。ディーラーは「お客様に申し訳ない。現在、買い戻しの交渉をしている」としている。

 個人情報保護委員会は「個別の事案にはお答えできない」としつつ、「たとえ利用事業者に故意がなくても、個人データを消去せずに廃棄・転売すれば個人情報保護法に違反する恐れがある。漏えいデータが1000件以上あれば当委員会への報告義務もある」と話す。

 ◆サーマルカメラ=人間の目に見えない赤外線を検知することで、体の表面温度を測るカメラ。もともと火災の検知などに使われていたが、コロナ禍では発熱者を見つけるため、施設入り口に置かれるようになった。

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