検証!なぜ人は46歳が一番不幸なのか

人はなにをもって「幸福」だと感じるのか――。これまでの経済学では、金銭的に豊かになれば人生の満足度も高くなると考えられてきました。
しかしここ数年、経済的に豊かだからといって幸せになれるかというと、そうではないことが世界的に言われ始めています。よく知られたところでは、ブータンは以前からGNPならぬGNH(グロス・ナショナル・ハピネス=国民総幸福量)の概念を掲げて、物質的な豊かさよりも精神的な幸福感を高める政策を進めていますし、昨年はイギリスのキャメロン首相が、国民の幸福度調査を行うと発表しました。
そのような折、イギリスの経済誌「The Economist」で興味深い記事を見つけました。人間の幸福度は年齢に相関するという内容です。あるアメリカでの調査で自分の幸福度を自己評価してもらったところ、平均で46歳のときが一番不幸だと感じるという結果が出たというのです。
20代、30代と年齢を重ねるにつれ幸福感は薄れ、40代半ばで底を打ち、その後は緩やかに回復する。これはアメリカだけではなく、世界的に共通する傾向のようです。
じつは、私も現在その46歳です。自分では年齢とともに不幸になっている感覚はありませんが、内容が興味深かったのでブログに書いたところ、かなりの反響がありました。銀行時代の同期からは、「40代に入ってからは子どもの受験や住宅ローン返済、仕事でもサブプライム問題後の深刻な時期が重なり、大変だった」と共感する旨のメールが届きました。40代半ばが幸福感のボトムだという感覚は、私の周りでも実感としてあるようです。
なぜ46歳がいちばん不幸に感じるのか。この年代はいろんな大変な現実に直面する時期なのかもしれません。家庭内でのトラブルがあったり、健康面でも生活習慣病や老眼といった不安が出てくる。
家庭や健康面だけではありません。仕事では先が見えてきて、取締役に昇進していく人と子会社に出向する人、転職でキャリアアップを図れる人とそうでない人の二極化が始まる時期でもあります。
この二極化は、終身雇用制や年功序列が完全に崩壊してからますます顕著になりました。高度経済成長期はどんな人でも上昇のトレンドに乗ることができたので、最初は給料が低くても、年齢が上がれば給料も上がることを期待して、さまざまなことを我慢しつつ働いてきたものです。
しかし、90年代以降に日本のGDPの成長が止まってからは、誰かの収入が上がれば他の誰かの収入は下がることは必然で、皆が横並びの状態ではいられなくなりました。これまでの滅私奉公の元を取ろうと思った矢先に、はしごを外されたと感じるのも無理はありません。
ここで問題なのは、諸外国では46歳を境に幸福感が増していくのに、日本ではそのようなU字回復が見られないことです。こうした日本独特の傾向は、経済的豊かさと自殺率の関係においても見られます。一人あたりのGDPが高いほど自殺率が低下するのが世界的な傾向ですが、日本では一人あたりのGDPが高いにもかかわらず、自殺率も高くなっています。
私が思うに、諸外国でU字回復が見られるのは、40代半ばでさまざまな現実に直面した後、柔軟な思考によってその現実を受け入れられるようになるからではないでしょうか。つまり、自分の夢に現実が追いつかない20代、30代は幸福度が下がっていくものの、ある時点で目標に変化が生じ、現実と理想のギャップを埋めていくことができる。この価値観の転換点が40代半ばなのではないかと思うのです。
これに対して、日本では価値観の転換がうまくなされていないように感じます。日本で40代半ばといえばバブル世代ですが、いまだに右肩上がりの感覚や生活習慣を忘れられない人は多いようです。「自分はこのままでいいのだろうか」という漠然とした不安を感じながらも、何をどう変えればいいのかわからないから問題を先送り。これが、年齢とともに幸福度が下がり続ける理由なのではないでしょうか。
それでは、こうした不幸スパイラルから抜け出すにはどうすればいいのか。まずは「人生の棚卸し」と「人生設計」から始めるといいでしょう。そのためには、「35歳くらいで郊外に一戸建てを買う」とか、「老後は田舎に引っ越して蕎麦を打つ」といったマスコミによってつくられたステレオタイプな考え方から脱却しなければいけません。横並びの思考停止状態では不幸になるばかりです。そもそもバブル世代の人たちは、人生設計をしたことのない人がほとんどでしょう。将来に対する不安を感じているなら、何が問題なのかを明らかにすることで、どうすれば幸せになれるのかという目標設定ができるはずです。
これはお金の使い方についても同じです。円の定期預金が一番安全だと思い込んでいる人は多いようですが、定期預金にして、生命保険に入って、年金もちゃんと支払っていれば将来は万全なのでしょうか。それは大いに疑問です。預金や保険、年金として預けられたお金は、多かれ少なかれ国債で運用されていることを考えると、結果的に国債に投資しているのと同じです。日本の財政赤字が世界的な問題になっており、国債の格付けも引き下げられました。何も考えずにお金を一カ所に集中させるのは危険です。急に何が起こるかわからない世の中だからこそ、分散投資するなどの戦略をもってお金を運用していく必要があるのではないでしょうか。
幸福とは、どのような状態のときに感じるものなのでしょうか。私は「自分が好きなことができる選択肢があること」だと思っています。
先日、友人と飲んでいて、一度も転職せずに安泰な会社勤めをしてきた人と、転職した人とではどちらが幸せだろうという話になりました。転職組には波瀾万丈な人生を生きている人もいますが、自分で行動を起こして挑戦したという点においては、何となく同じ会社で20年を過ごして現在に至った人よりも幸せな人が多いのではないか、という結論に達しました。
これからは一人ひとりが自分の人生戦略を持つべきです。46歳といっても、まだ先は長い。これから30年、40年という時間が残っています。誰のものでもない自分の人生。年を重ねるごとに自分流の幸せを実現したいものです。

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