業界1位の給与水準? SEGA「絶好調」の納得の理由、海外売上を伸ばす“ある秘策”とは

2023年、セガはモバイルゲーム『アングリーバード』を開発したロビオ・エンターテインメントの買収を発表した。任天堂カプコンがゲーム開発部門を国内に抱える方針をとる一方、同社はこれまで『Total War』を開発したクリエイティブ・アッセンブリー社、『Football Manager』のスポーツインタラクティブ社、『Company of Heroes』のレリック・エンターテインメント社など、海外のゲーム開発部門を積極的に買収してきた。はたして、セガは海外M&Aを成長に結びつけることができているだろうか。同社 代表取締役副社長の内海州史氏に、海外M&Aの狙いや、売上を伸ばす秘策について伺った。 【詳細な図や写真】セガサミーグループの売上の推移(出典:各種公表資料より筆者作成)

ゲーム市場はどこまで成長するのか?

──今後、ゲーム市場はどれだけ伸び続けると見ていますか? グローバルには好調ですが、日本市場はアーケード部門もコンシューマー部門も頭打ちにあり、モバイルゲーム部門もかなり閉塞感が出てきました。 内海州史氏(以下、内海氏):1990年代半ばごろは、世界における日本市場の比率は30%から35%の間ぐらいあったんです。当時は、それぐらい日本市場のインパクトがありましたが、20年経ってみると今や10%を切っています。  一方、米国はずっと伸びてますし、東南アジア、南米、中東、南アジアも成長しています。まだまだ伸びる余地がある地域としてインドなども残ってますね。  日本を中心に見ると閉塞感があるかもしれませんが、セガの場合はグローバルで強いブランド力がありますし、流通も含めると海外には割とモバイルゲームの領域でも伸ばしていきやすいはずだという仮説もありますね。

苦戦するモバイル事業は変われる?“ある打開策”とは

──今、セガさんはコンシューマー部門で市場自体の後押しもあり、絶好調だと思うのですが、ほかの領域はいかがでしょうか? 内海氏:コンシューマー部門は割と綺麗に海外シフトに入っていきました。モバイルゲーム部門は、まだそこに全然至っていない状況です。  たとえば、セガではモバイルゲーム部門として『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』『D×2 真・女神転生 リベレーション』『ぷよぷよ!!クエスト』などのモバイルゲームをリリースしていますが、売上は家庭用とは真逆で国内8割、海外2割という状況です。  これは当社だけでなく、日本のモバイルゲーム企業はすべからく同じ状況にあります。国内市場がどんどんシュリンクしていって、次の展開はどうすれば良いのかという課題に直面しているのです。  その1つの打開策として、当社はロビオ・エンターテインメントを買収しました。彼らは『アングリーバード』を2009年にリリースし、世界で最初にモバイルアプリゲームのヒット作を作った会社として知られています。2016年のアングリーバードのハリウッド映画化も成功し、モバイルゲームの売上も伸ばし、この10年間モバイルゲームの世界で海外市場を席巻してきました。そうした会社とのシナジーで、グローバルで数字を伸ばしていけるかがポイントになると考えています。  1,000億円規模の買収はセガの歴史上最大の規模でしたし、ロビオ・エンターテインメント自体が500名超のメンバーを抱える巨大な開発会社であり、あらゆる場所に欧州拠点を持っているため、これらをどう生かしていくかを含め、現在模索している状況です。

セガの海外M&Aはホントに成長につながる?

──海外企業を買収しても、その後、マネジメントしていく難しさがあります。任天堂カプコンも国内開発がメインである中、セガは2006年にクリエイティブ・アッセンブリー社(英)、2007年にはスポーツインタラクティブ社(英)、2013年にはレリック社(カナダ)など、日系企業ではソニーと並び、唯一と言って良いほど、海外の開発部門を積極的に買収してきました。 内海氏:最近は、毎月1回はロビオ・エンターテインメントの本社のあるフィンランドに足を運んでます。日本の社員1人が現地に駐在していますし、まさにグローバルで両社のシナジーが出せる方法を検討しているところです。  現在、セガは国内に約2000名、海外に約1500名の開発スタッフがおり、海外でも開発していますしIPも持っています。セガヨーロッパは、それらを1つのユニットとして開発と販売を全部まとめてきています。  しかし、欧州市場は全体的に厳しくなってきており、どの欧州拠点を見ても結構苦労しているんですよね。もちろん、ゲーム自体は売れているんですが、北米やアジアほど成長が見られないことに加え、開発の固定費もどんどん上がっている。そうした中で、北米・欧州・アジア、どこに注力してくべきかポートフォリオを考えなおさないといけないタイミングに来ています。 ──ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SCE)のやり方を見習うのであれば、北米が本社という位置付けにして、もはや日本の文脈とは関係のないグローバル開発で作っていく、という方向性もあります。 内海氏:北米のほうがゲーム市場の規模は大きいですし、当然そういう結論になりやすいのですが、じゃあグローバルを目指す会社は、皆、北米を軸としたグーグルのような会社になれば良いのかというと、それは違うと思うんですよね。  目指すべき方向性はその企業の強み弱みによって判断すべきですし、さらに言えば、そもそもエンタメって1社1社が非常に差別化されている稀有な産業だと思います。  サービス業の場合は、より良い優れたサービスというのが決まってくるため、割とそうした戦略を各社一斉にやる流れがあるため、差別化に苦労しやすい。でもエンタメコンテンツって「なぜ、米国で日本のヤクザをテーマにした『龍が如く』が売れているんだっけ?」みたいな、どんなニッチでもきちんとユーザーがいる部分があり、作品単位では十分に差別化できているんですよね。ある意味、唯一無二性で勝負ができる領域だから、あれだけアジアテイストのあるゲームでも面白さがあれば欧米で一定のファンを獲得していけるのだと思います。

海外売上を伸ばす秘策、“あるプロセスの自前化”とは

──セガサミー全体で見ると、2010年代は右肩下がりの苦しい時代に見えます。そうした状況にあった組織が、直近のソニックを原作としたハリウッド映画の大ヒットだけでは変わりませんよね? 具体的に、何を変え、今の好調につながっているのでしょうか? 内海氏:海外ビジネスとのやり取りに、“海外事業”の専門家を挟まない形にしました。「海外事業部」のような分かりやすいローカライズ組織を廃し、開発スタジオも、マーケティング部門も、コーポレート部門も、それぞれの機能が直接米国や欧州の支社とやり取りしながら一緒に進める、という形に変えました。もはや海外売上が8割になっている時点で、我々の事業はグローバルで一括りなんです。世界同時にマルチプラットフォームで売っていくという姿勢を徹底しました。  実は、日本語版・英語版を同時に発売するということもかつては常識じゃなかったんですよ。ソニックはすでにそうなってますが、たとえば『龍が如く』ではいまだに実現出来ていません。  派生タイトルの『JUDGE EYES』(2018年)ではやったのですが、本作としては次回作『龍が如く7外伝 名を消した男』が初めての全世界同時発売です。それを実現するために海外拠点とは開発中の段階から密にコミュニケーションしないといけない。それを仲介役を通しながら伝言ゲームでやっていると情報も曲がるし伝わらなくなる。今ももちろん海外的なサポート部門もあるし、英語のレッスンを全社的に無料で受けられるようにしたりと苦労はしているんですが、今では、やり取りは前よりかなりスムーズになってきていますね。  各スタッフ単位でみても、無理しててもグローバルとのやり取りで鍛えられていると、キャリアとしての市場価値も上がります。転職したらより高いポジションも得やすい。海外で売れた分、皆に払える給与も上がります。そうした意味ではグローバル視点で海外拠点と各事業部が直接ビジネスをしていくことに対して、全体的にポジティブというか、それが基本だよねという感じに変わってきつつあります。

国内トップ水準の給与、「今自分たちが世界の舞台に立っている」という開発者たち

──給与の点で言えば、「マイナビ・日経 2024年卒大学生就職企業人気ランキング」では、理系総合ランキングで6位(文系11位)、ソニーグループや三菱重工など並んでますが、ゲーム業界の中では、セガが断トツ1位となりました。1位常連のバンダイを抜き去ったのは驚きました。 内海氏:給与水準を上げていくこともありますし、海外出張の機会を増やして人材の経験値の幅を広げていくことも考えています。また、買収したロビオ・エンターテインメントの中で、技術カンファレンスとして「Rovio Conference」(ロビオコン)を開催しているのですが、それも刺激を与える意味で国内の開発者にも参加させていこうと思っています。  ソニックの映画に続き、今後はさらにハリウッド映画を基軸としたトランスメディア的なことをやっていかなければなりませんし、ライセンス事業そのものも強化していかないといけない。そして海外にファンベースをどう作っていくのか、ゲームだけじゃなくて動画制作もメディア構築もやっていかなければならない。  このように、ビジネスを開発するといった意味でも、ゲーム開発者だけではない人材を募集し、これまでなかったようなノウハウを持つ人材を広く集める必要があるのです。  「良い商品を作ることに対して真面目」というところが何よりもセガの強みなんです。当たり前に聞こえるかもしれないですが、実際にそう言い切れる会社はそう多くはないんです。開発スタジオの中の多くの人間が「今自分たちが世界の舞台に立っている」という心構えを持ち、その強みを磨き続けられるかどうか。経営層のような一部の人間だけがそれを背負っているわけではなく、全員がそれを真に納得してできているかどうか。それが、今のセガが挑戦している社内文化の改革でもあります。

日本企業の「ゲーム開発力」、総合力が高いと言える理由

内海氏:セガはさまざまな統廃合を繰り返したが故に、見えた部分もあります。たとえば、国内ではアーケードの開発部門とコンシューマーの開発部門とを統合しました。長い間アーケードゲームだけを作ってきた開発者でありながら、コンシューマーゲームを作ってみると凄く良い仕事をしたりして、そうした環境の変化に対する社員の強さを知る機会にもなりました。  これはゲーム業界全体の特性でもあるかもしれません。僕はワーナーミュージックにもいたので音楽業界と見比べて気づいたのですが、ゲームって新しい技術が出るたびに人もビジネスも進化してきているんですよ。  たとえば、VRという技術が登場すればVRゲーム、ブロックチェーンが出ればブロックチェーンゲーム、さらにはAIも出てきています。  一方で、音楽やほかのエンタメ産業には、ビジネスモデル含め、そこまで変化してきたところってないんですよね。モバイルやスマホが登場したときも、モバイル向けのプラットフォームとして視聴する端末は変わりましたが、結局「音楽を聴く」スタイルや音楽そのものには大きな変化はないんです。  デジタルファーストなゲームだから、技術の進化とともに体験やサービスの在り方も変化させなきゃいけなかった。マインクラフトやROBLOXのような事例も出てきますしね。  また、日本人の開発者には、積み上げてコツコツと作る力、そして開発チームとしての安定性と長期的な習熟能力があります。  もちろん、米国にも優秀な技術者が多いのですが、やはり人材の流動化が非常に激しく、特定のスタジオにノウハウを貯めるためのコストが非常に高くつきます。総合力を上げていくという点で言うと、日本企業にはある意味優位性があるのです。

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