楽天元幹部が重大証言!「楽天エクスプレス」打ち切りとキックバック疑惑の真相

楽天グループが多額の予算を投じて構築してきた自前の配送網「楽天エクスプレス」事業を5月末で唐突に打ち切る決定を下した。同事業を巡っては、下請けの軽貨物運送業者との間でトラブルが起きていることや、楽天の元執行役員によるキックバックの疑惑もささやかれている。今回筆者はこれまで口を閉ざしてきた同事業元幹部の貴重な証言を得ることができた。関係者らへの取材により、事業打ち切りの裏側で一体何が起きていたのかを明らかにする。(東京経済東京支社長 井出豪彦)

内部告発をきっかけに

幹部の不正疑惑を調査

楽天グループが多額の予算を投じて構築してきた自前の配送網「楽天エクスプレス」事業を5月末で唐突に打ち切る決定を下した。その裏側で一体何が起きていたのか。

下請けの軽貨物運送業者との間でトラブルが起きていることや、三木谷浩史社長から同事業に関して大きな裁量を与えられてきたヤマト運輸出身の元執行役員A氏によるキックバックの疑惑についてはダイヤモンド・オンラインの記事(https://diamond.jp/articles/-/287176)を含むさまざまなメディアですでに報じられているが、今回筆者はこれまで口を閉ざしてきた同事業元幹部の貴重な証言を得ることができた。

三木谷氏がこだわってきたはずの「ラストワンマイル」の自前配送網に見切りをつけ、日本郵政グループとの提携にかじを切ったのはなぜか。改めてひもといてみたい。

関係者によれば、楽天がA氏らによる不正疑惑の調査に乗り出したのは昨年12月頃のことだった。

A氏はヤマト運輸の法人営業部ECソリューション課長として楽天を担当していた際に三木谷氏と面識を得て、手腕を見込まれ、エクスプレス事業の立ち上げ責任者にスカウトされた人物だ。取引先に三木谷氏のことを話す際には「ミッキーが…」と呼ぶなど親密な関係がうかがえたという。

A氏は2016年7月に楽天の執行役員に就任。ヤマト時代の人脈を駆使して社内の組織を構築するとともに、各地の運送業者と業務委託契約を結び、倉庫も確保するなどエクスプレス事業の拡大を推進してきた。

だが、「見るからにイケイケのタイプ」(取引先)だったこともあり、かねてより取引先との癒着が疑う声があった。ブランドファッションで身を固め、何台もの高級車を持ち、「クルーザーを買った」という自慢話を記憶している取引先もあった。最終的には楽天からの発注が不自然なまでに急増していた会社からのキックバックについて、部下による告発が行われたようだ。

内部告発を受け、監査部門がA氏のパソコンのデータやメールのやりとりなどを徹底的にチェックした結果、最終的に昨年12月24日午前に本人に更迭が告げられた。しかし、その事実は社外にはおろか、社内でも正式にアナウンスされなかった。

実際のところ、取締役会決議に基づく解任だったのか、自主的な辞任という体裁をとったのか、今回の取材を通じてもはっきりしなかった。楽天は判で押したように「社内規定に従って厳正に対処した」と繰り返すのみだ。

ゴールデンウイーク明けに

「5月末の事業終了」を通告

いずれもしてもこの日はクリスマスイブという以上に楽天にとって重要な日だった。日本郵便との間で物流分野での戦略的提携に向けた基本合意書を締結し、午後からリリースを行う段取りだったのだ。三木谷氏はその日の午前中に自社配送網の構築を任せてきたA氏を切った。この時点で三木谷氏の腹の中ではエクスプレス事業に事実上見切りをつけたのかもしれない。

実際、楽天は今年3月12日、日本郵政と1500億円の第三者割当増資と資本・業務提携の締結を発表した。提携分野は物流、モバイル、DXの3分野にわたっていたが、楽天側が最も重視しているのは物流拠点や配送システムの共同構築など、物流分野にあるのは明らかだった。ところが、この時点で楽天はどういうわけかエクスプレス事業からの撤退には一言も触れていない。

撤退が取引先に正式にアナウンスされたのは2カ月後のゴールデンウイーク明けからだ。5月末で事業終了という一方的な通告に、事業に協力してきた業者の多くは怒り心頭に発した。筆者が入手した、楽天と下請けの「運送業務委託契約書」では「第21条(解約)」として、楽天は3カ月前に書面通知することにより本契約を解約できると定めている。3カ月前までに解除通知がなければ、6カ月間の自動更新となる。

他社との契約も同様だったとみられ、楽天は各社と個別に交渉し、契約解除に伴う違約金の支払いに応じる羽目になった。下請けの1社はまだ納得せず、楽天による不当な買いたたきや、A氏へのキックバック支払いに応じる業者への不当な営業所移管(A氏による実質的な経営資源の奪取)があったと主張し、一部で報じられている通り、それらの被害も含めた6億5300万円の支払いを要求する事態となっている。

楽天が契約を守らず

契約解除を通知した理由

しかし、楽天の立場に立つと、突然の通知となったのもやむを得ない面があったかもしれない。

というのも5月末で楽天エクスプレス事業を打ち切ろうとすれば、2月末までに契約解除を通知する必要があるが、そのころ楽天はA氏周辺の不正に関する調査に追われ、解除通知した場合のリスクの見極めができていなかったと推測されるからだ。

A氏と親しかった取引先の幹部は楽天の監査部門から呼び出されて事情を聞かれたのが2月から3月頃だったと明かす。しかも3月12日以前の時点では、日本郵政との資本・業務提携契約に向けて交渉を進めていることはトップシークレットだ。

数十社の取引先に一斉に契約解除を通知すればエクスプレス事業撤退のプランが漏れ、日本郵政との資本提携交渉まで露見しかねない。しかもエクスプレス事業の責任者が不正にキックバックを受け取り、トラブルになっているとわかれば日本郵政との交渉自体がご破算になるリスクすらある。

それならば、日本郵政からの増資払い込みが終わり、不正調査も一段落した5月に各社に解約を通知し、契約書どおり8月末で解約できればよかったかもしれない。

あくまで筆者の推測だが、5月末というエクスプレス事業の撤退期限は、日本郵政との資本・業務提携の交渉過程で日本郵政側から要請されたものだったのではないだろうか。そうすると強引な解約もつじつまが合う。楽天はモバイル事業の先行投資がかさみ資本増強が急務。多少の犠牲を払っても日本郵政側の機嫌を損ねるわけにはいかなかったからだ。一方、郵政もカネを払った以上、楽天の荷物を早く運びたいだろう。

今回接触できたエクスプレス事業の元幹部は、楽天が日本郵政と提携交渉を開始したのは20年5月から6月だったと思うと明かした。当然社内でもごく一部しか知らない秘密のプロジェクトだったが、交渉が始まったことはうすうす勘付いたという。

16年11月にスタートしたエクスプレス事業はまだ先行投資段階で、目先数年は赤字が続くことが確定しており、しかも日本郵便に頼んだ方が安く運べることもわかっていた。

それでも当初は3年以内に日本郵便に追いつく目標を立てて自社配送にこだわったが、「グループ全体でモバイル事業に経営資源を集中させていく中で、エクスプレス事業の赤字は許容できなくなったのではないか」とこの元幹部は分析する。

A氏の不正発覚がエクスプレス事業撤退の決断につながったのか、との筆者の質問には明確に否定した。

A氏の不正を認めた

楽天幹部の音声テープ

また、今回A氏の後任が、急な解約になったことに伴う補償について取引先と交渉している音声も入手できた。

「なぜ解約通知がこんなギリギリだったのか?もっと早いタイミングでクローズを決めていたのではないか?」

このように楽天への不信感をぶつけた取引先に対し、後任の人物は次のように答えている。

「楽天としての正式な機関決定は4月末だった。電話でお知らせする話ではないので実際のお知らせが5月中旬までずれ込んでしまった。突然の通知で突然の解約になったことでご迷惑をかけたことは申し訳ないが、昨年12月の不正発覚で撤退を決めた流れではないというのは信じてほしい」

いずれにしても音声の中で、後任の人物もA氏が不正に手を染めていたことは認めている。

今回取材に応じてくれた軽貨物運送業者は「運送業界には多層取引による利益の中抜きと不正なキックバックが横行している。楽天のような一流企業ですらこんなことがまかり通ってきた。この体質を変えないと将来はない」と切実に訴えた。

楽天に改めてエクスプレス事業の責任者だった元執行役員が辞任した経緯や、刑事告訴の有無、撤退の協力業者への通知が直前になった理由について質問をしたところ、楽天は次のように回答した。

<質問1>

楽天エクスプレス事業の責任者だったA氏(質問文では実名。以下同じ)が昨年12月24日に辞任した経緯を教えてください。

<回答>

元従業員の個人情報となりますため、回答を控えさせていただきます。

<質問2>

A氏には協力業者に水増し請求させてキックバックを受け取っていた背任の疑いがありますか?また、この件で刑事告訴する予定はありますか?

<回答>

元従業員の個人情報となりますため、回答を控えさせていただきます。当社では不正な行為が確認された場合、調査のうえ、社内規程に従って厳正に対処しております。

<質問3>

今年5月末で楽天エクスプレス事業から撤退したのは3月に日本郵政グループと資本・業務提携を結んだことと関係がありますか?また、今年5月末というタイミングで楽天エクスプレス事業から撤退することは日本郵政グループとの交渉で決めたのですか?

<質問4>

今年5月末で楽天エクスプレス事業から撤退したのは、昨年12月にA氏らの不正が露見したことと関係がありますか?

<質問3と4への回答>

楽天エクスプレスのサービス終了および日本郵便様との提携については、事業を取り巻く市場環境の変化等を総合的に判断し決定しております。社内で実施した不正に関する調査とは一切関係ございません。事業としての継続可否については常に検討しており、日本郵便様との提携検討も昨夏からはじまったことから、本調査前後にかかわらず、事業終了や他社との連携含めて、あらゆる観点で継続的に検討してきました。

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