自然、アクティビティ、異文化体験を組み合わせた旅行スタイル「アドベンチャートラベル」を楽しむインバウンド(訪日客)の誘致が国内で広がっている。訪れた土地の風土や文化を深く理解し、自身の内面の成長を感じることが醍醐味(だいごみ)と言われ、欧米豪の富裕層を中心に人気が高まる。東北では太平洋沿岸をつなぐ長距離歩道「みちのく潮風トレイル」を主軸にPRが始まった。
(報道部・小関みゆ紀)
震災を知るきっかけにも
アドベンチャートラベルを推進する国際団体は4~10日、全長1025キロの潮風トレイルを舞台に、海外の旅行関係者らを対象としたツアーを実施。米国やカナダなどから参加した9人が福島、宮城、岩手、青森4県のルート沿いで、トレッキングやサイクルツアーなどを体験している。
2日目の5日は塩釜市の浦戸諸島を訪れた。マリンゲート塩釜を出発し、船で桂島や野々島などを巡るコース。桂島では、人々の暮らしと自然が密接につながる島ならではの風土を感じながら、高低差のある自然道で約4キロのトレッキングを楽しんだ。
浦戸諸島の前には、東日本大震災の遺構「荒浜小」(仙台市若林区)を訪問。かつての町並みを再現したジオラマを前に「震災前、窓から見える景色は全く違っていたのでしょう」と窓辺の景色に目を移した。スマートフォンの翻訳アプリで展示を読むなどし、12年半前の出来事を想像した。
米国の旅行ライター、ゾエ・ベラールジョンさんは「この地域を深く理解する上で震災は欠かせない」と語り、学んだ内容をすぐさま交流サイト(SNS)に投稿。「自分が成長している」という実感こそが、旅の満足度につながると話した。
一般社団法人日本アドベンチャーツーリズム協議会(東京)によると、アドベンチャートラベル1回あたりの消費額は1人約50万円(2022年時点)と一般的な旅行に比べて高額。北米、欧州、南米からの旅行者の市場規模は合計70兆円を超え、右肩上がりという。富裕層に人気が広がり、長期滞在になりやすい傾向が消費額を押し上げる。
ツアーに帯同した東北観光推進機構(仙台市)の担当者は「東北は雄大な自然や豊かな食文化が各地に点在し、今後のポテンシャルは十分」と期待を込める。
視察は11日から北海道で開催されるアドベンチャートラベルワールドサミットを前に企画された。