歌姫の賭け、米音楽業界は大慌て 無料配信のスポティファイに「NO」

 米人気女性カントリー歌手、テイラー・スウィフトさん(24)のアルバム「1989」が発売初週で128万7000枚を売り上げ、ビルボード誌認定の全米チャートで5日、初登場1位を記録した。発売第1週での売り上げが100万枚を突破したのは米ラップ歌手、エミネムさん(42)の「ジ・エミネム・ショー」(2002年)以来。CDの売り上げ低迷が続く中、スウィフトさんはある戦略で12年ぶりとなるミリオンヒットを飛ばしたが、米誌タイムが「彼女は賭けに負ける」と批評するなど、その評価は割れている。
 「1989」はスウィフトさんが約2年ぶりに発表した5枚目のアルバム。「128万枚」は驚異的な数字だが、これにはある理由があった。スウィフトさんは3日、米で人気の音楽無料配信サービス「スポティファイ」から自身の全楽曲を削除。スポティファイでは聴けないようにして、新曲もアップルの有料配信「アイチューンズストア」と大手小売りチェーン「ターゲット」だけで売りに出した。このため、ファンは有料で新曲を買うしかなく、第1週の爆発的な売り上げにつながったとみられている。
 スウェーデンで生まれ、08年からサービスを開始したスポティファイは、アイチューンズのようなダウンロード販売ではなく、楽曲データを受信しながら同時再生する「ストリーミング」技術を採用。無料で約2000万曲が聞き放題とあって急速に利用者が拡大した。曲間に広告が入らない有料定額サービスもあり、58カ国で4000万人の会員(うち有料会員1000万人)を持つ。
 しかし、スウィフトさんはかなり前から今回のやり方を思い描いていたようだ。7月には米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)への寄稿で、「音楽は価値ある芸術で、無料ではないと思う」と無料配信サービスを批判。販売戦略以上に彼女自身の音楽観が反映していると見る向きもある。スポティファイは再考を促すなど、米の音楽業界は大慌てとなっている。
 とはいえ、ストリーミングサービスは全世界で急拡大しており、タイム誌(電子版)が5日付で「スポティファイを足蹴にし、ストリーミングのビジネスモデルを拒否した彼女は、賭けに負ける」と報道するなど、スウィフトさん側の「戦略ミス」を指摘する声も高まっている。
 全米レコード協会(RIAA)によると、ストリーミングサービスの今年上半期の総売上高は前年同期比28%増の約8億5900万ドル(約983億円)で、音楽市場全体の27%を占める。この市場シェアはCD(28%)とほぼ同じで、有料ダウンロード販売(41%)を追い抜くのも時間の問題だ。
 米調査会社NPDグループのアナリスト、ラス・クラプニック氏はタイム誌に、スウィフトさんの主要なファン層である14~34歳の消費者の42%がスポティファイや「ユーチューブ」といったストリーミングサービスで音楽を楽しんでいると説明。スポティファイを拒絶することは彼女にとって得策ではないと警告した。
 弱冠24歳にして米音楽界最高の名誉であるグラミー賞を4度受賞し、「歌姫」の称号をほしいままにしているスウィフトさん。WSJへの寄稿で「現代の音楽界では冒険することに価値が生まれる。本当のリスクとはリスクを恐れて挑戦しないことだ」と言い放った彼女は、音楽業界のメーン・ストリームに逆らい、新たな秩序を打ち立てることができるのか。(SANKEI EXPRESS)

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