止まらない“ドコモ離れ”、背景にある「iPhone 4S」の存在

NTT ドコモから契約者の流出が止まらない。モバイルナンバーポータビリティ(MNP)の転出超過数の推移を見てみると、ここ半年間で毎月約9万件前後の契約が他社に流出しており、春商戦のピークとなった2012年3月には約14万件、4月には約10万件と、“大台”を突破してしまった月もある。一方の KDDI(au)とソフトバンクモバイルはこの流出した契約者を着実に取り込んでおり、ドコモは“一人負け”の状態が続いているのだ。
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この契約者の動きに大きく影響を与えているのが、間違いなく iPhone 4S の存在だ。ドコモはここ最近の記者発表などで一環して iPhone の導入に否定的な考えを明らかにしており、これが iPhone に興味を持つドコモユーザーの失望感を招いているほか、au とソフトバンクモバイルが相次いで割安感の高い料金プランや割引キャンペーンを打ち出しているのが、契約者の MNP 利用に対する強い動機になっているものと考えられる。ドコモは今年の夏に Android スマートフォンの新モデルを多数ラインナップするほか、秋には通信料金の値下げに踏み切ることを明らかにしているが、これが MNP 流出に歯止めを掛ける施策になるかは未知数だ。
● iPhone 4S を販売する2社の MNP 利用数に差 その違いは何か
一方、iPhone の状況を見てみると、先日アメリカで開催された開発者向けイベント「WWDC 2012」において、かねてより噂されていた“iPhone 5”の発表はされず、既存の iPhone ユーザーや、購入を検討していた人の中にはがっかりした人も多かったはずだ。あくまでも噂の域を出ないが、“iPhone 5”発表時期の本命は秋ごろと言われており、それまでは引き続き iPhone 4S が人気の中心となるはずだ。BCN が発表している最新の携帯電話売れ筋ランキングでも引き続き iPhone 4S が上位にランクインしており、“iPhone 5”でスマホデビューを検討していたフィーチャーフォンのユーザーもこれからの夏商戦で iPhone 4S に流れる可能性が高い。
では、au とソフトバンクモバイルが併売する iPhone 4S に、会社ごとの違いはあるのだろうか。 発売当初は、ソフトバンク版の一部機能が au 版では利用できず、端末スペックに差があったが、現在は au 版のアップデートによりスペック的には全く差がない状態。料金プランに関しても両社がプランを用意することで、ランニングコストの差はほとんど無いと言える状態だ。
しかし、最近の MNP 利用数(転入超過数)の動向を見ていると、au とソフトバンクモバイルの差は若干だが広がり、au は8か月連続で MNP 利用数でトップを維持。その勢いが増しているように感じられる。その要因はどこにあるのだろうか。
● “安さ”のソフトバンク VS “通信品質”の au
ソフトバンク版 iPhone の強みは、料金プランの安さだ。また、iPhone 3G から歴代モデルを販売してきたということもありユーザー数が多く、ホワイトプランで無料通話の対象となる“ただとも”が多い点。このコストパフォーマンスに対する評価が高い。この点に関しては、au も3月から開始した「au スマートバリュー」が加入者100万人を突破し、契約者獲得に大きく寄与。料金プランを軸にした契約者獲得競争は拮抗しているようだ。
一方で、au 版 iPhone の強みは、繋がりやすさと通信エリアの広さだ。ソフトバンクモバイルも7月から新たに900MHz帯電波(プラチナバンド)に iPhone を対応させると発表しているが、KDDI が整備してきたインフラ網に追いつくのにどれほどの時間が掛かるかはわからない。高品質なインフラを提供してきた au に対する安心感が、iPhone 4S 購入時のユーザーの心理に少なからず影響を与えているものと考えられる。
● 拮抗するコストパフォーマンス、人気の差は“快適に利用できるか”
“安さ”と“通信品質”、この両者がどれほど購入者のその後の満足度に影響を与えるのか。調査会社のイードが iPhone 4S の購入者2,000名に対して行なった「購入時の通信会社選択」に関する満足度調査によると、au を選んだ人の満足度は61%、ソフトバンクを選んだ人は49%と満足度に大きな差が生まれる結果になった。この数字の差は、販売直後に同社が行なった満足度の差(au:53%、ソフトバンク:49%)よりも大きくなっている。
満足度の項目別調査結果を紐解くと、この満足度の差に大きな影響を与えているのが「通信品質」であることがよくわかる。au ユーザーの62%が「通信エリアの広さ・圏外の少なさ」に、56%が「ネットの繋がりやすさ」に、そして47%が「インターネットの速さ」に満足しており、それぞれの項目でソフトバンクに対する満足度を大きく上回っているのだ。コストパフォーマンスで両社が拮抗している中、購入検討者にとって重要な関心事は“購入してから快適に利用できるか”ということであり、au がこの点でソフトバンクに対して契約者が満足できるだけの価値を提供しているということが、この調査結果からも伺える。
● 契約者争奪戦“夏の陣”、各社の動きに注目
7月になると、各社から新サービスや新端末が相次いで発売され、夏商戦が本格的にスタートする。“一人負け”の NTT ドコモが豊富な新モデル・新サービスでどこまで挽回できるか、ソフトバンクモバイルの「プラチナバンド」は“繋がりにくい”汚名の返上となるか、そして、MNP 利用数で首位を走り通信インフラの強化や契約者向けのサービス拡充を進める au の快進撃は続くか。端末、サービス、通信インフラそれぞれで話題が尽きない夏商戦になることが見込まれる。

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