正社員と非正規で、実際どれくらいの格差がある?元日銀副総裁がわかりやすく解説

―[経済オンチの治し方]―

 私は経済学者として国内外の大学で教鞭をとったりした後、’13~’18年には日本銀行副総裁として金融政策の立案にも携わりました。そこで、感じたのは「経済を知れば、生活はもっと豊かになる」ということ。そのお手伝いができればと思い、『週刊SPA!』で経済のカラクリをわかりやすく発信していきたいと考えました。
正社員と非正規で、どれぐらいの格差があるのか?

 日本では1990年代以降、非正規社員が増加の一途をたどり、’22年の全体に占める非正規社員比率は37%で、ほぼ5人に2人は非正規となっています。なかでも、女性の非正規社員比率は53%で、2人に1人は非正規です。

 アベノミクス以降、非正規社員の賃金は上がっていますが、それでも、’22年の正社員賃金の58%にとどまっています。非正規社員の賃金は正社員のように、年齢とともに上がることがないため、正社員と非正規の生涯賃金には億単位の差がつくのです。

 厚生年金の有無で年金支給額も大きく変わるため、広い意味での正社員と非正規との格差はさらに広がります。

 実は、このような正社員と非正規社員との大きな賃金格差は、日本ならではの特徴です。海外の先進国では、正社員と非正規という区分ではなく、労働時間の長さと雇用契約期間の長さで区分するのが普通です。

 小前和智氏(リクルートワークス研究所)の研究によると、欧州諸国では、有期雇用者の時給は無期雇用者の74~85%(’10~’18年平均)ですが、日本は65%です。短時間労働者のフルタイム労働者に対する時給比率も欧州諸国より10~30%も低くなることなどを挙げたうえで、小前氏の研究は、日本の賃金格差が「日本固有の正社員と非正規社員という区分による」ことを明らかにしています。

◆日本の雇用制度と賃金格差

 同様の結論を導いている研究が最近増えています。

 小前和智・玄田有史両氏の研究(『日本労働経済雑誌』’20年2・3月号)では、20~49歳男性の“狭義の正規雇用”(無期雇用でフルタイム労働の正社員)の時給は、“狭義の非正規雇用”(有期雇用で短時間労働)よりも20%高くなり、女性の場合は31%も高くなると報告しています。

 また、短時間労働の有期雇用でも、正社員の場合は非正規よりも24%(男性の場合。女性の場合は54%)も時給が高くなることから、正社員であることが時給を高める決定的な要因であることを証明しています。

 一般に、職場訓練と職場外訓練(管理職研修など)の機会は、正社員が優遇されます。これは賃金を引き上げる要因になりますから、正社員と非正規の賃金格差を拡大させる要因となります。

 以上のように、日本の雇用制度では、正社員であることが、スキルアップを経て賃金を上昇させるうえで極めて重要になります。景気が悪く、新卒時に正社員になれなかった運の悪い人が、非正規から有期雇用や短時間労働の正社員を経て、無期雇用・フルタイムの正社員にまで上り詰めることも可能ですが、初めから正社員だった人との賃金格差はなかなか埋まりません。

 このような日本の雇用制度をどのように改革すれば、正社員と非正規社員の賃金格差を大きく縮小できるかが、今後の日本の課題です。

◆岩田の“異次元”処方せん

非正規の賃金は、正社員の6割弱という格差是正が日本の課題

―[経済オンチの治し方]―【岩田規久男・元日銀副総裁】
東京大学大学院経済研究科博士課程退学。上智大学名誉教授、オーストラリア国立大学客員研究員などを経て、’13年に日本銀行副総裁に就任。’18年3月まで務め、日本のデフレ脱却に取り組んだ経済学の第一人者。経済の入門書や『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)、『自由な社会をつくる経済学』(読書人)など著書多数

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