今回の新型肺炎騒動では感染の初期対応の不備が指摘されているが、その一因となった湖北省武漢市当局の情報統制の実態が徐々に明らかになっている。すでに、昨年末時点で、武漢市の医師が新型コロナウイルスの実態を把握しており、SNS「微博(ウェイボー)」で情報を提示していたという。だが、事実の発覚を恐れた当局が「デマを流した」などとして、これらの情報を共有していた医師8人を一時身柄拘束するなどして、情報の拡散を阻止していたことが分かった。中国紙『北京青年報』が報じた。
8人の医師のうちの一人は同紙の取材に対して、昨年12月30日午後5時半ごろ、風邪のような症状で運び込まれた患者から、病原体として新型のコロナウイルスを発見。他の医師仲間に対して、SNSのチャット機能で、病原体検査結果の写真とともに「華南海鮮市場でSARS(重症急性呼吸器症候群)の感染者7人が確認された」と投稿した。華南海鮮市場は新型コロナウイルスの最初の発生現場とされる。
他の医師も「一家3人がSARSに感染した」などの情報を投稿したことから、情報が拡散し、武漢市公安当局が医師8人の身柄を拘束したという。これについて、中国国営中央テレビ局(CCTV)は「武漢市公安当局が『デマ』を流した8人に対して法に従って処罰を行なったと発表した」と報じている。
その後、新型コロナウイルスの情報に関する報道はタブーとなり、患者を診察した医療関係者は実態を知りながら、事実を隠蔽し、治療せざるを得なくなったという。
ところが、感染者が急激に増えたことから、隠蔽のしようがなくなり、新型コロナウイルスの実態が知られると、市民の間にも8人の医師の存在が明らかに。すると、逆に市民の間から「彼らは尊敬に値する人物だ」と8人の医師の処分の見直しを求める声が高まった。これを受けて、中国最高人民法院(最高裁に相当)は1月28日、公式ブログで「彼らは法的処罰を受ける必要はなかった」と異例の判断を下し、事実上の名誉回復がなされた。
これらの報道から、事実の隠蔽を指示した湖北省や武漢市の最高幹部は記者会見で「対応は十分でなく、遅きに失した」「市民に警告を発するのが遅く、かつ十分ではなかった」などと謝罪に追い込まれた。
なお最初に警告を発した医師はその後、新型肺炎に罹患、2月7日に死亡、多くの追悼の声があがっている。