新型コロナウイルスによる肺炎が発生・蔓延(まんえん)し、事実上封鎖された中国湖北省から退避した邦人の第1陣が29日午前、日本政府の全日空チャーター機で帰国した。「ほっとした」。現地では物資不足や衛生面悪化への不安が浮上する中、帰りついた邦人は安堵(あんど)の表情を浮かべた。
チャーター機は予定より1時間余り遅れ午前8時40ごろ、羽田空港に到着。帰国者を代表して取材に応じた武漢日本商工会役員の青山健郎さんは「感染者が急速に増えて事態が悪化する中、不安だった。帰国できてほっとしている」と語り、同役員の加藤孝之さんも「政府の迅速な対応に感謝している」と語った。
2人によると、現地では外を出歩けず、部屋にこもらざるを得ない状態が続いた。一部の日系スーパーは営業し食料などを売っていたが、品不足が広がっていたという。ただ、加藤さんは「外出を控え、マスクと手洗いを徹底すれば大丈夫だと信じていた」と振り返った。
北京の大使館から職員ら8人が陸路で入り、現地で対応。チャーター機による帰国について随時、メールなどで連絡を受けていた。
出国時には問診を受け、チケットを受け取りチャーター機に搭乗。機内では医師が巡回し、健康チェックを行った。青山さんは疲労からか、席についた途端、眠りについた。周囲の乗客も「一様にほっとした様子だった」という。
一方、現地にはいまだ多くの帰国希望者がおり、仕事などの事情で日本に帰国できない人もいるとし「政府には日本人の安全を確保してほしい。マスクや医療品など中国へな支援も強化してほしい」と訴えた。
青山さんは中国人の同僚から「今は大変な時だがまた戻ってきてくれ」と伝えられたと明かし、「今も24時間操業しているが、同僚は自分たちでしっかりやると、前向きに考えてくれている」と語った。加藤さんも「同僚に報告したら『気をつけて帰ってくれ』と。『早く戻ってきてほしい』とも言われた」と気遣っていた。
チャーター機が到着した羽田空港では、夜明け前から発症者がいた場合に対処するため約20台の救急車や乗客を医療機関に運ぶための大型バス5台も待機。到着後は、手荷物などを下ろす作業と並行し、感染症を防ぐマスクや防護服を装備した空港職員らが機体の周辺を行き交い、緊張に包まれた。