武蔵小杉で「マスク無料配布」の正体「武漢からの恩返し」在日華人の思い 「今が正念場、日本を優先して」

新型コロナウイルスの感染拡大が心配されているなか、最近、日本に住む華人たちが無料でマスクを配っている動画が話題になっています。「心温まる話」として受け止められている一方、なぜ「こんなにたくさんマスクを持っているの?」という声も。実際に配布を呼びかけた華人の母親の思いを聞きました。

【画像】各地の駅周辺で行われた「マスクの無料配布」活動 手作りの看板に込められた華人たちの思いは?

SNSで話題になった「マスクの無料配布」

2月25日、中国版ツイッター微博で「華人女孩東京街頭発口罩(日本在住の中国人女性が東京の町でマスクを配布していた)」という投稿ハッシュタグ付きで話題になりました。

女性は渋谷駅周辺で、鹿のぬいぐるみをかぶり、段ボールの箱を抱きながらマスクを配布しました。箱には「武漢からの恩返し」という言葉が見えます。

この動画は微博上で7000万以上のビューと2万5000以上のコメントを集めました。

「よくやりました。中国人はきちんと恩を返します」
「日本人はとても礼儀正しいですね。マスクを受け取る際には、両手ですし、お辞儀もします」
「投我以木瓜、報之以瓊瑶」(注:『詩経』の一節で、「私に果物をくれて、あなたに玉石を報いる」という意味)
「日中友好の新しい始まりだ」

必須アイテムになったマスク

中国武漢で新型コロナウイルスの感染者が爆発に増えたのは1月下旬。1月23日に武漢が封鎖されてから、中国政府は全国民に外出を控えるよう呼びかけ、外出する際には、マスクをつけることが義務付けられました。

それ以降、世界中の中国人がマスクを買うようになり、中国各地から寄せられる支援物資リストには、「マスク」が必須アイテムになっています。

中国へは、日本からも多くの支援物資が届けられました。物資を入れた箱には「そばにいる、応援している」というメッセージの漢詩が書かれていたことは、中国の人々に多くの感動を与えました。

新型コロナウイルスの影響は、日本でも深刻化し、今度は日本でマスクが買えない状態に。そんな中、中日ボランティア協会による「マスクパンダアクション」など、多くの華人団体や民間組織が「余ったマスクを日本人に分けましょう」といった活動を呼びかけました。

武蔵小杉の母親たち

ネットで話題になった武蔵小杉のケースでは、在日華人の王(ワン)さんらが呼びかけて始まりました。

王さんは来日して6年目で、子育て中の母親です。中国で新型コロナウイルスの感染が拡大していた時から、マスクなどの準備をしてきました。その後、日本でマスクの売り切れが相次いだことを受け、華人の母親たちを中心に、マスクの無料配布をすることにしました。

「日本はまだ中国のような措置を取っていないと感じています。通勤時の満員電車でもマスクをしていない人の姿をよく見かけます」

「自分たちの安心安全は自分たちがやらないといけない。自分を守る、家族を守る、そして住んでいる地域を守る。それは私たちにとっては『日本を守る』ということなので、マスクの無料配布にたどり着きました」

マスクの出どころは?

もともと、日本に住む華人は、花粉症に備えるため、マスクを多めに備蓄する家庭が「トイレットペーパー感覚」でマスクを家に置く人が少なくありません。

そこで、王さんは、中国版ラインのWeChatのグループに呼びかけました。

「家族や地域を守るために、自宅にマスクの余裕がある家庭は、その一部を寄付してもらえないでしょうか」

「中国の友人や家族に頼まれて、早めに注文したマスクが届いた方、今は中国に荷物が送りにくい状況なので、日本を優先してもらえないでしょうか」

「今は一番マスク不足な正念場です。寄付をお願いします!」

王さんの呼びかけに応じた華人たちが、自宅に余った分のマスクを寄付しました。

現金は受け付けなかった理由 

一つの家庭につきマスク一箱、あるいは一袋ぐらいの寄付になっていましたが、結果、千枚以上のマスクを集めることができました。

今回、王さんは、現金の寄付は見送りました。

「ドラッグストアでマスクを購入しなければならず、またマスクの争奪戦に加担してはいけないと思いました」

「意識を高めることは、無限大の意義がある」

王さんによると、今回の活動の最大の目的は、注意喚起だそうです。

「私たちの趣旨は、まずは自分を守る、そして家族を守る。そこから住んでいる地域を守り、日本を守ることです」

王さんたちのような華人グループは、まだまだ力が小さく、各家庭から集められそして配ったマスクの数は、1500枚程度です。

「数に限りがあるマスクですが、一個一個必要のある人の手に渡し、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ意識を高めることは、無限大の意義がある」と考えています。

「マスクを早めに買った人たちは、マスクを譲ってほしい。マスクの高価な転売は、やめてほしい」

共通の「敵」への連携

マスクの配布からは、華人たちの日本への思いが見えてきます。

華人たちは長年日本に滞在し、仕事も生活の基盤も日本に重心を置き、日本はまさに第二の故郷になっています。自分たちの家族を守り、日本を守りたいという気持ちが、自然に沸き上がってきた様子が伝わってきます。

日本から中国へ救援物資が多く届けられたことは、中国の対日感情を向上させています。マスク配布には、「武漢からの恩返し」という思いも現れています。

東京五輪が近く中、新型コロナウイルスという共通の「敵」に対して、草の根レベルでの連携が生まれているようです。

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