「歯磨き中によく、『オエッ』とえずいている」。こうした人が身近にいたり、「自分がそうだ」と心当たりがあったりする人も多いのではないでしょうか。
歯ブラシを口に入れたときに吐き気を催し、つい、「オエッ」となってしまうことに悩んでいる人や、家族のそうした状態を気に掛ける人は少なくなく、ネット上では「父親が毎朝、大音量でえずいているので心配になる」「昔から、歯磨き中にえずいていたけど最近、その頻度が増えた気がする」といった声がある他、中には「えずくのが怖くて、歯科医院に行けない」と歯科治療をためらう人もいるようです。
歯磨き時に「オエッ」とえずいてしまう現象について、こどもと女性の歯科クリニック(東京都港区)院長で歯科医師の岡井有子さんに聞きました。
■気道狭いとなりやすく
Q.歯磨きをしているときに吐き気を催したり、「オエッ」と声が出てしまったりするのはなぜですか。
岡井さん「喉の奥や舌の奥には、喉に異物が入るのを防ぐための『嘔吐(おうと)反射』が存在します。『オエッ』となるのは身を守るために必要な反射で、生理的なものです。そのため、歯ブラシで舌の奥の辺りを磨いたときにえずくのは特に問題ありません。また、口呼吸時、口の中に入った異物によって喉の奥に舌が追いやられ、気道が狭くなって『オエッ』となることもあります。
しかし、普通に歯磨きをしているだけで、例えば、下の歯の舌側を磨いただけで、あるいは歯ブラシを口に入れただけで『オエッ』となる人は要注意です。歯ブラシで奥歯を磨いたときにえずくのは、口の中に歯ブラシを入れることで舌が喉の奥の方に下がり、狭くなった気道を広げようとして嘔吐反射が起こり、『オエッ』となるのだと思われますが、恒常的に舌が下がり、舌の影響で気道が狭い人も嘔吐反射が起きやすく、何らかの病気と関連している可能性があるからです。病気のことは後ほど説明します」
Q.歯磨きの際にえずきやすい人の特徴はありますか。ネット上では「年配の男性に多い」「加齢によって起こる」というイメージを持つ人も少なくないようですが、実際はどうなのでしょうか。
岡井さん「えずきやすい人の特徴としては『何らかの原因で姿勢が悪くなっている』『気道が狭くなる疾患がある』といった要因で気道が狭くなっている可能性が考えられます。気道が狭い人は歯ブラシなど、口の中に入れた物の影響で舌が後ろに下がり、ますます気道を狭めてしまう可能性があります。
『男性に多い』『加齢によるもの』はおおむねイメージ通りだと思います。『男性は上半身、女性は下半身に脂肪が付きやすい』『睡眠時無呼吸症候群は男性の方が女性の2~3倍の発症率』というデータが示すように、男性は顎や喉に脂肪が付きやすく、さらに、加齢に伴って代謝が変わることで気道が狭くなりやすいと考えられるためです。
ただ、最近は、テレビゲームやタブレット端末の使用などで姿勢が悪くなった結果、気道が狭くなり、『オエッ』となりやすいお子さんもいます。鼻が悪かったり、口呼吸になったりしている子も嘔吐反射が起こりやすいです。実際、普段の診療でも『口呼吸』『鼻が悪い』『いびきをかく』『後頭部・首を触られるのを嫌がる(=頭の後ろが硬く凝っている)』子どもは『オエッ』となりやすく、歯ブラシやミラーを入れただけで嘔吐反射が起こる子もいます。これは姿勢や口呼吸の具合、口の狭さで変わってきます」
Q.一方で「これまで、歯磨き中にえずくことはほとんどなかったのに最近よく、えずくようになった」というケースもあるのでしょうか。また、えずきがひどい場合、何らかの病気が潜んでいる可能性も考えられるのでしょうか。
岡井さん「この場合もやはり、気道に問題が生じている可能性が高いです。肩の凝りはないか、いびきをかいていないか、姿勢が悪くなっていないかを見直してみてください。えずきがひどい場合、先述した睡眠時無呼吸症候群や鼻の疾患などを疑った方がよいでしょう」
Q.「自分はえずきやすい」という自覚がある人の中には「毎日の歯磨きが苦痛」「歯科医院に行くのが怖い(口の中の治療に耐えられる自信がない)」という人もいるようです。
岡井さん「コロナ禍のマスク生活で口呼吸になる人が増えているようです。えずきやすい場合は口呼吸になっていることが多いので、まずは鼻で呼吸するようにしましょう。鼻呼吸を意識するだけで症状の改善がみられます。また、肩周りや首回りの緊張が原因となることもあるので、首の後ろ側のストレッチやマッサージも効果的です。
歯科医院に行くのが不安な場合は受診の際に『えずきやすい』旨をお伝えいただけると先生が配慮してくださると思います。口の中の環境を整えることは大切なので、歯科医院に行かない選択をするよりも、治療中に鼻呼吸を意識することや、先生に申告することで随分と解決すると思います。歯科医院に行くことへのハードルが高くなり、緊張することもえずきやすくなる原因の一つです。1回の治療時間を短く、回数を重ねて短い間隔で通院することも効果的です」
オトナンサー編集部