“残業代ボッタクリ”おじさんたちが「働き方改革」に苦言…俺らに死ねと言っているようなもん

労働環境の改善をはじめ、“働き方改革”を推進する企業も増えてきた。社員に「残業させない」方針をとる会社も少なくないと思うが、なかには残業代で月収の不足分を補ってきた人もいるはずだ。ライフステージも後半に差し掛かると、家の購入や子どもの学費など、なにかとお金がかかる。そんななか、残業代を失い現実を突きつけられた中年サラリーマンたちは今……。

◆残業代をもらえずに阿鼻叫喚の中年社員たち

東京駅地下にある安居酒屋に、夕方五時半にフラフラと現れたのは、大手情報系企業に勤める丸岡さん(仮名・50代)と、その知人で電子機器製造メーカーに勤務する原田さん(仮名・50代)。

二人は席に着くなり、19時までに注文すれば一杯190円で飲めるという生ビールと290円のポテトフライ、それにだし巻き卵をそれぞれ二つずつ注文し、タバコをふかし始めた。

「早く家に帰ったって家に居場所はねぇし、残業代も無くなっちまったから、こうやって時間潰すしかねぇんだよ」

こうつぶやいた丸岡さんは、運ばれてきたビールのジョッキを勢い良く飲み込んだ。丸岡さんは大学卒業後、現在勤める会社の子会社に就職。バブル全盛の’80年代後半に親会社へ出向し、そのまま採用された。

子会社で優秀な業務成績を収めていた丸岡さんの年収は、当時900万円超。さらに「働けば働くほど儲かる」という時代背景もあってか、残業代が月給を上回ることも珍しくはなかった。さいたま市郊外にささやかな一軒家を建て、社会人の娘、大学生の息子もいる。

これと言って派手な人生を過ごしてきたわけでもないが、このまま定年を迎え、退職金をもらってつつましく老後を過ごす。そう「勝手に思い込んで」いたのだった。

「働き方改革? なんて誰が言い出したんだかね。残業禁止っておめぇ、バカじゃねーのか? クビをちらつかされて、給料も下げられ、そのうえ残業までするな、なんて。俺らに死ねと言っているようなもんだ」(丸岡さん)

08年のリーマンショック以降、丸岡さんの会社は急激な業績不振に陥り、管理職や中年社員に早期退職を迫った。応じれば、定年時点でもらえる退職金満額に加え、数百万円が加算される。多くの同僚、上司、仲間が数千万円を手に会社を去ったが、丸岡さんは辞めなかった。二人の子供はまだ学生、引退するには不安が残る、と判断したからだ。

「年収は以前の三分の二になった。まあそれでも会社にいられれば良い、しがみついときゃ死ぬことはないと思ったよ。会社ではどんどん居場所がなくなり、えらい奴は“ナントカ推進室”とかワケの分からん部署を作って、肩書だけもらって威張ってる。俺らヒラはどんどん手取りが下がり、唯一、残業代だけが希望だった。それももらえないとはね。いやあ、詰んだよ。ほんとに。詰んだ」(丸岡さん)

日刊SPA! © SPA! 提供 日刊SPA!

働き方改革に同調した会社と労働組合が、全社員に「残業しないよう」奨励すると、若手社員は自宅に仕事を持ち帰ってするようになったというが、丸岡さんのような中年ヒラ社員は冒頭のように安居酒屋でクダを巻くのみ。

そもそも彼らが残業時間に何をやっていたかと言えば、喫煙所にこもってスマホのゲームに興じていたり、ネットの「まとめサイト」を見て暇つぶしをしていただけだったのだ。会社や同僚、部下にとっては“お荷物”だったことも事実かもしれない。

◆お荷物扱いはツラい…

一方で、原田さんの勤務先も「働き方改革」によって残業を禁止した。昨年までは残業代が月収の五分の二程度を占めていたというのだから、生活水準を落とさざるをえない。それどころか……。

「私はまじめに残業していましたよ(笑)。なかには丸岡さんのように、ダラダラと居残って残業代を稼ぐおっさんもいたけどね。とにかく、残業代がもらえなくなったせいで、海外の美大に留学している息子への仕送りも厳しくなった。大田区内の自宅マンションも“高値のうちに”と売り払って、今は神奈川県内に中古の戸建てを買ったよ。なんか、悲しくなっちゃうよなぁ」

この安居酒屋には、まだ陽の明るいうちから安いビールとわずかなつまみで何時間も居座るような中年サラリーマンがほかにも十数人。

「みんな早く家に帰っても家族には煙たがられるわけ。昔みたいに派手に飲むカネもないから、こうやって安居酒屋に集っているんだろうね。なんつーかさ、俺たちだって自分らが“お荷物”ってことは、何となく感じているわけ。でも、これまで必死に頑張ってきたんだよ。尊敬しろとは言わないが、もう少し優しくしてくんねーかな。社会も、会社も、部下もさ……」

働き方改革によって、あぶり出された中高年サラリーマンたちの現実。彼らは会社や家族の“お荷物”なのか。とはいえ、だれにも“老い”は等しく訪れる。第一線で働き続けられるのはほんのひと握りだろう。超高齢化社会のニッポンにおいて、多くの人が行き場を失うときがくるのかもしれない……。<取材・文/森原ドンタコス>

タイトルとURLをコピーしました