ある日突然、大金を手にした男たちは幸せになれたのか。宝くじ「高額当せん者」に、“その日” 以降を振り返ってもらった。
2008年9月30日午後5時、京王井の頭線の渋谷駅のそばにある「宝くじロトハウス」。唱田照八さんは、1カ月前に福岡・西鉄久留米駅で10口購入したtotoチケットを、窓口に差し出した。
「さっさとハズレくじをもらって帰ろうと思っていたら、スタッフがざわついていて、10分ほど待たされました」
唱田さんは、派遣社員のシステムエンジニアだったが、クビになったばかりだった。しばらくして、窓口の女性が小さい声で囁いた。
「当たっていますよ。このメモに書かれている場所へ行ってください」
渡されたのは、1等6億円当せんを証明するレシートと、引き換え場所となる信用金庫までの地図だった。
「いきなりパニックになりました。銀行は閉まっていたので、もともと行こうと思っていたゲーセンに入って。ポケットに突っ込んでいたレシートを紛失したら6億円を失うのに。混乱していたんです」
家族との関係はうまくいっていなかったが、父親に同行してもらい、翌日換金手続きをした。直後から、銀行はさまざまな投資話を持ちかけてきた。だが唱田さんは、自分の欲求に応えることにした。
実家を出て、渋谷に家賃50万円の3LDKの賃貸マンションを借りた。クロムハーツのリング、両手の10本ぶんを300万円で買い、2000万円でポルシェのSUVカイエンターボSの限定カラーも購入した。そのほかにジープのチェロキー、アルファード、ヴェルファイア、軽自動車2台。沖縄に部屋を借りて、トヨタの最高級クルーザー「ポーナム45」1億3000万円、ほかにも船を2艇買った。
「コンビニへ行くと必要のない無駄買いをすることが多かったのですが、コンビニまるごと買えるお金があると思うと自分の家の冷蔵庫感覚になり、一切無駄買いしなくなりました。一方、六本木のキャバクラでフロアにいる女性を全員指名したこともあります。店にある酒を全部出してもらったら2時間で2000万円ほどかかりました(笑)」
だが、車や船は「維持費がかかりすぎる」ため、1年弱で手放した。2億円ほどは浪費したが、その後は投資を猛勉強。現在は資産を株などで運用し、方位学をもとにした「開運コンサルタント」として活躍している。
「宝くじに当たったことで、いろんな人にお金の無心をされたけど、ふつうのサラリーマンには体験できないことができたし、当たってよかった。また当たると思って宝くじを買っていますが、今はもっと大きな夢を見ています」
写真・長谷川 新