民法、120年ぶり大改正へ 「うっかりクリック」救済など

「うっかりクリック」に救済策を設け、飲み屋のツケの“有効期間”は5年に延長?! 生活のあらゆる場面に適用される民法のルールが大きく変わろうとしている。契約に関する規定のほとんどは明治29年の民法制定から約120年も変わっておらず、インターネット通販の普及など、現代社会に合わせた見直しが進められている。法務省は中間試案へのパブリックコメント(意見公募)を6月17日まで募っており、平成27年の国会提出を目指しているが、消費者の生活はどう変わるのか。(滝口亜希、時吉達也)
 ◆消費者を救済
 「購入前に規約をお読みください」。ネットでチケットなどを購入する際に表示される注意書きだ。しかし、続いて出てくるのは細かい文字が並ぶ画面。読み飛ばし「同意する」をクリック-。よくある経験だ。
 この文章が「約款」と呼ばれるもので、クリックした時点で契約内容とみなされる。事実上、業者側がほぼ一方的に契約の細かい条件を定めている状態だ。
 「18万円の海外旅行の購入ボタンを誤って押し、すぐ取り消したが15万円請求された」「旅館の宿泊券を1カ月半前にキャンセルしたが返金されない」-。国民生活センターに昨年度寄せられた相談は2700件超に上る。
 民法にはそもそも約款の規定自体がなく、今回の見直しでは約款規定の新設が大きな柱となっている。
 試案では「約款は契約の内容となる」と法的効力を明記。クリックして契約が成立しても、高額なキャンセル料など、常識では予測できないような条件を紛れ込ませた約款は「不意打ち条項」や「不当条項」として無効にできる-など、消費者を救済するルールが検討されている。
 ◆「時効」一律に
 ツケの支払い方も変わりそうだ。飲食店などの未払い代金の請求期間(消滅時効)の見直しも提案されている。
 たとえば、スナックを経営するAさんが客のBさんに代金の支払いを求めるケース。本来Bさんは代金を支払う義務があるが、お店を訪れた日から2年も3年もたってから突然返済を求められても支払う必要がない。Aさんの権利は1年で消滅するとされるからだ。
 民法は職業別に1~3年という時効を定めている。たとえばレストランの飲食代は1年、自宅の電気料金は2年-という具合だ。試案では5年に統一する案が検討されている。
 ◆解決へ選択肢増
 ほかに直面する機会が多そうなのが、買った商品に欠陥があった際に問題となる瑕疵(かし)担保責任だ。
 Cさんが知人のDさんから乗用車を500万円で買ったとする。しかし車の引き渡し後にブレーキの故障が判明した。今の法律に当てはめると、買い主のCさんがDさんに求められるのは、契約を白紙に戻す契約解除と損害賠償のみだ。
 しかし、実際には「ブレーキさえ直してもらえばよい」というケースも少なくない。試案では、解除や賠償に加え、Dさんの負担でブレーキを修理することや、故障に応じて価格を値引きすることなども可能とした。選択肢を増やすことで、トラブル解決までの時間を短縮するのが狙いだ。
 これらを含め、見直し論点は約300に上る。法務省は早ければ平成27年の通常国会への法改正案提出を目指すが、同省幹部は「民法は最も改正の影響が大きい法律。試案をもとに大いに議論してほしい」としている。
 【用語解説】民法
 憲法や刑法などと並ぶ重要法令で、いわゆる六法のうちの一つ。明治29(1896)年に制定された。「総則」「物権」「債権」「親族」「相続」の5編で構成し、全体で約千の条文がある。試案で改正が検討されているのは主に契約のルールを定めた債権分野。

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