「あの流暢に日本語を話す金髪美女はいったい誰だ?」――。日本でも盛んにテレビCMを流しているので、「トリバゴ」という名前を聞いたことがある人は多いだろう。印象的なCMを覚えている人も少なくないようで、ネットでもしばしば話題になっている。
CMでは、男女がそれぞれに違う方法を使ってホテルを予約。同じホテルの部屋でも、予約方法によって料金が違うことを訴えている。トリバゴを使えば、最もお得な値段で泊まれます、というのがCMの趣旨だ。
このトリバゴとは、いったいどんな会社なのか。
■複数ある旅行サイトの料金を比較
インターネット上には、旅行サイトと呼ばれるサイトがあまたあり、トリバゴもその1つだ。だが、一般的な旅行サイトとトリバゴの違いは、トリバゴが「メタサーチエンジン」と呼ばれるテクノロジーカテゴリーに属することである。
一般的な旅行サイトならば、そのサイトが提携し、把握しているホテルの宿泊プランから、宿泊予定や禁煙ルーム、朝食付きなどの条件に沿ったサーチ(検索)を行い、その結果を表示してくれる。一方、そうした旅行サイトを複数束ね、そこに貯められた在庫データにアクセスして一気にサーチするのが、メタサーチエンジンである。
「メタ」とは「上位」という意味。個々の旅行サイトに傘をかけるように存在し、その傘の下にあるサイトの情報を1回のサーチで実行する。トリバゴでは、世界の200以上の旅行サイトがまとめてサーチできるとしている。
こうしたサイトが成り立つ背景には、同じような仕組みに見えても、旅行サイトによって宿泊料が異なるという状況がある。そもそも最近の宿泊料は需要に応じて変動制になっているうえ、サイトとホテルとの提携の強さなどによって基本的な値段が異なる。
これに気づくと、数々の旅行サイトで値段を比較したくなるのだが、メタサーチサイトがあればユーザーは個々のサイトを訪ねる手間なしに、複数のサイトの情報を閲覧でき、その中から最もお得な値段を選べるのである。
少なくとも米国では、トリバゴのようなビジネスモデルは決して新しいものではない。航空券、ホテル、レンターカーなど、さまざまな分野でこの手のメタサーチサイトが何年も前から存在している。カヤック、オービッツ、プライスライン、ホットワイヤー、トリップアドバイザーなどの名前がよく知られており、それぞれに特徴がある。
トリバゴの長所を挙げれば、サイトのインターフェースが使いやすくデザインされていることだろう。メタサーチサイトによっては傘下のサイトごとにウインドーが開いてわかりにくいものがあるが、トリバゴの場合は同一画面に並んでいて比較しやすい。
また、モバイルアプリで、近くのホテルのお得情報が見られたり、当日の投げ売り価格が表示されたりするといった、細かなテクノロジー開発や工夫が見られるのもトリバゴの特徴だ。
■売り上げの約87%をCMに投下
そして、執拗ともいえるテレビCMがある。これは日本だけではなく、米国やオーストラリアなどでも展開されているもので、売り上げの87%を広告に費やすというトリバゴの企業戦略の下に行われている。
各国で採用しているのは、大物スターというよりは脇役風の男女の俳優。だが、それなりに味のある人物で、何といっても1日に何度も繰り返し見ているうちに気になる存在になってくるのがミソである。米国やオーストラリアでは、「トリバゴの男」「トリバゴの女」といった呼び名で話題に上る。日本だけでなく、他国でも「気になる」CMとなっているということは、ひとまずこの戦略はうまくいっているのだろう。
トリバゴは、実はドイツの会社だ。2005年に、現在は製品担当のマネジングディレクターを務めるロルフ・シュルウムゲンツ氏ら大学の同級生4人によってデュッセルドルフで共同創設され、欧州で人気のサイトになった。
何度かの投資ラウンドを順調に経て、2012年にアメリカの旅行サイトであるエクスペディアが過半数株を買い取って買収。2016年末にナスダックに上場した。2016年12月期の売上高は7億5400万ユーロと前期比1.5倍超に拡大(ただし、営業費用を積極的に投下していることから、前期は4400万ユーロの営業赤字)。いまやサイトには約140万のホテルが掲載されており、世界190カ国でサービスが利用されているという。
だが、現在も1100人以上いる社員の過半数はドイツにおり、欧州のホテル情報に強いなど、欧州拠点の企業という色合いが濃い。目下、本社のあるデュッセルドルフでは2018年の竣工を目指して、3000人を収容できる新たな本社ビルを建設している。
■予想とは逆の現象が起きている
今も欧州色の強い会社だが、社内文化は「シリコンバレーをドイツに持ち込んだ企業」といわれるほど、社内ヒエラルキーを極力抑え、フレキシブルな就業時間を実施するなど、ドイツ企業としては新しい存在だ。
かつて、インターネットビジネスによって現実世界で商売をしてきた「仲介業者」はいなくなるといわれた。だが、旅行代理店に代わってオンラインの旅行サイトが現れ、さらにその次にトリバゴのようなメタサーチサイトが登場した。要は、仲介業者がどんどん増えていくという、予想とは逆の現象が見られるということだ。だが、ユーザーにとっては安いお得情報を探せるようになったところが、かつての現実世界との大きな違いだろう。
また、旅行サイト業界ではびっくりするほどの統合が起こっている。たとえば、トリバゴを買収したエクスペディアは、傘下にホテルズ・ドットコム、ホットワイヤー、オービッツ、トラベロシティー、ホームアウェイなどを抱えている。もともとエクスペディアは、マイクロソフトが創設し、後にスピンアウトされた会社だ。
競合のプライスラインやトリップアドバイザーも、同じように数々の旅行関連サイトを買収して取り込んでいる。別々のブランドとして運営しているが、親会社は同じというケースが多い。
こうした旅行サイト業界では、互いの関係やホテルとの提携も断続的に変化しており、かなり流動的な状況だ。われわれユーザーとしては、お得に旅行するためには、その動きによく目を光らせておかなければならないということである。