気仙沼の千田家住宅など27件登録 東北の有形文化財

 文化審議会は15日、東日本大震災で津波被害を受けた「千田家住宅主屋」(気仙沼市)など、36都府県の建造物220件を登録有形文化財にするよう答申した。近く告示され、登録数は9613件になる。
 東北では「阿部家住宅」(五所川原市)「新政酒造」(秋田市)「旧農林省積雪地方農村経済調査所庁舎」(新庄市)「桜丘会館」(いわき市)など27件が登録される。
 ほかに登録されるのは、日本の天文学の発展をけん引した「国立天文台ゴーチェ子午環室」(東京都三鷹市)▽和風意匠を取り入れたモダニズム建築「諏訪市文化センター(旧北澤会館)」(長野県諏訪市)▽嵯峨嵐山の田園風景を彩るかやぶき屋根の「落柿舎」(京都市)▽赤色瓦としっくい壁が山間に映える「辻本店店舗兼主屋」(岡山県真庭市)▽池泉庭園と一体となって豊かな風情を醸す「旧伊東家住宅(四明荘)主屋」(長崎県島原市)など。
◎地域のランドマーク/千田家住宅主屋(気仙沼市)
 気仙沼市中心部の内湾地区の角地にある。木造2階の一部3階建て。交差点に面した部分は曲面を描き、塔状の3階部分には煙突のような出窓が設けられ、地域のランドマークとして親しまれている。同一敷地内にある土蔵と石蔵も登録される見込みだ。
 主屋は1930年の建築。前年の気仙沼大火で前身の建物が焼失したため、地元の建設資材問屋が再建した。43年に千田家が取得。1階は貸店舗、2、3階を住宅として使っていた。東日本大震災の津波で2階まで浸水したが、全壊は免れた。
 内湾地区では、地元の団体が中心となり、津波被害に遭った酒造会社「男山本店」など国登録有形文化財6件の復旧プロジェクトが進行中で、千田家住宅の再建にも取り組んでいる。
 宮城県内では、銘菓や茶を扱う塩釜市の「丹六園」(1914年建築)も登録される予定。震災の津波で1階部分が水に漬かったが、約1カ月半後に営業を再開した。
◎雪国の情報発信/旧農林省積雪地方農村経済調査所庁舎(新庄市)
 旧大蔵省営繕管財局の設計で、1937年に建築された。戦前に同局が設計した建物では、現存する数少ない近代建築で、東北地方では唯一だという。
 木造2階建て。急勾配の切り妻造りの屋根に、採光のためのドーマー窓(屋根窓)が東側に4カ所、西側に3カ所ある。建築時は、屋根の雪が窓に引っ掛かり落ちにくかったため、2年後に窓の数を減らした。外壁は下見板張りで、1997年の改修でペンキ塗装されている。
 84年に新庄市に移管され、積雪地方農山村研究資料館になった。93年に敷地内の現在地に移築され、97年からは「雪の里情報館」として利用されている。展示物で積雪の分布や雪国の暮らしぶりなどを伝える。
 山形県内では、熊野神社本殿(村山市)、旧安部家住宅主屋(河北町)など8件も登録される見通し。
◎高校名の由来に/桜丘会館(いわき市)
 磐城高等女学校(現磐城桜が丘高)の図書館兼同窓会館だ。木造2階で1938年に落成し、52年に改修された。
 モルタル塗りの外壁に欠円アーチの縦長窓や円窓、隅部の横長窓が昭和前期の建築流行を示す。
 屋根は瓦ぶきで、建築面積は168平方メートル。本館と西隣の新館からなり、本館1階は図書館、2階が畳敷きの教室として使われた。新館は生徒生活実習寮だった。
 正門東側に位置し、現在も登下校時、生徒の目に留まる。磐城女子高が2001年に共学化し、磐城桜が丘高として生まれ変わった際は校名の由来となった。
 福島県内では、朝日座(南相馬市)も登録される見通し。
◎和洋20室備える/阿部家住宅主屋と文庫蔵(五所川原市)
 五所川原市で「大阿部」の屋号を持つ大地主阿部家の住居で、第11代当主が建てた。1892年建築の主屋と文庫蔵が今回登録された。
 主屋はけた行き35メートル、はり間19メートルの木造2階建て入り母屋造りで、20室ほどの和洋室を備える。居室の境に、キリの一枚板に竹などをかたどった透かし彫りの欄間を飾るぜいたくな造りで、明治期後半の大型近代和風住宅の姿を残す。
 主屋北側に建つ文庫蔵は書物のほか、掛け軸など阿部家の宝物庫としても用いられた。けた行き11メートル、はり間5.5メートルの土蔵造2階建て切り妻造りで、外壁をしっくい塗りで仕上げてある。腰壁部分は黒地に白の格子が鮮やかななまこ壁で、重厚な造りが特徴だ。
 現在でも阿部家が所有し、主屋をそば店として活用している。
◎現役の仕込み蔵/新政酒造(秋田市)
 1852年創業の老舗蔵元、新政酒造の酒蔵群5件。屋根のひさしから大きく張り出すさや屋根は、雪深い地方ならではの造りだ。
 明治中期に建てられた吟醸蔵は、現在使われている清酒酵母としては最古となる「協会6号酵母」の蔵で、現役で仕込みを行っている。外壁には鉢巻きと水切りを巡らし、東面にしっくい塗りの窓を開く。
 明醸蔵は珍しい形式でてんびんはりが用いられ、愛醸蔵は外壁の破風部分に屋号が描かれているのが特徴。
 旧感恩講東籾蔵と米蔵、旧感恩講西籾蔵は貧民や孤児など社会的弱者を救済する施設「感恩講」の歴史を伝える貴重な遺構でもある。
 秋田県内では、那波紙店(秋田市)の店舗兼主屋、向かい蔵など5件も登録される予定。

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