気仙沼港を基地とするマグロなどの遠洋・近海漁船の所有会社でつくる宮城県北部船主協会(気仙沼市)が、東日本大震災後に全国から受け入れた新規就労の乗組員が来春、100人に達する。仕事の魅力を発信する協会のブログに感化された若者たちが続々と乗船。ブログを1人で担当する事務局長の吉田鶴男(たづお)さん(47)は「大きな節目を迎えられた」と感慨に浸る。
震災後、協会が会員につないだ新規の乗組員数は92人で、大半が10、20代。船長になった若者もいる。2018年3月には福岡、和歌山両県などの高校を卒業する7人を含む9人の乗船が決まった。
吉田さんは震災後、後継者不足が深刻な遠洋漁業の魅力や仕事の中身を伝えながら漁船員を募ろうと決意。12年2月に「漁船員(漁師)になろう!」と題したブログを始めた。スマートフォンを持ち歩く漁師の姿が目立ち始めたことがきっかけだった。
ドラマの脚本家を目指したことのある吉田さんの熱い言葉が若者をひきつける。体験談を載せたり画像をふんだんに使ったりして、仕事のイメージが湧きやすいのも魅力の一つ。文章の最後は必ず歴史上の人物や経営者らの名言で締める。
ブログを発信すると、乗船を希望する若者からの連絡が増えた。震災前は就業者ゼロの状態が続いた時期もあったが、漁師希望者の就職イベントに積極的に参加したことも奏功し、12年度以降は毎年20人近くが乗船するようになった。
ブログの更新回数は480回を超える。「周囲に『10年で100人乗せる』と豪語したが、正直、天文学的数字だと思っていた。一心不乱に走り続けた結果が出た」と振り返る。
乗船を望む若者に実際に会い、漁師としての資質を見極めるのも吉田さんの大切な仕事。1時間近く話を聞き、時には厳しい意見を言って若者を泣かせることもあるという。
乗組員の誕生日に必ず励ましのメールを送る吉田さんは、「みんなを家族として受け入れてきた。息子を応援するのは親として当然の仕事」。親身な姿勢が若者の信頼を得ている。
最近、名刺に「漁師リクルーター」の肩書を加えた吉田さん。「震災で傷ついた気仙沼の港を、もう一度若者であふれさせたい」と意欲を燃やす。