気仙沼湾ホタテ受難 貝毒による出荷規制長期化

気仙沼湾のホタテが受難のシーズンを送っている。貝毒が検出されて出荷規制が長引き、長期にわたり水揚げできない異常事態が続く。東日本大震災の津波の影響も指摘され、ホタテ養殖の漁業者からは「再起したばかりなのに、まだ苦しめられるのか」とうめき声が上がる。
<「収入ゼロ」>
 「大きくなったホタテを海中につるしたままにするのはつらい」。宮城県気仙沼市唐桑町の宿舞根漁港の養殖業鈴木芳則さん(39)は11月上旬、10数センチに育ったホタテを恨めしそうに見つめた。
 11月はホタテの出荷を終えてカキ養殖に専念する時期だが、ことしは多くのホタテがいかだにつるされたままだ。貝の重みで沈みそうないかだもある。このまま水揚げが遅れれば、養殖施設に被害が出る恐れもある。
 鈴木さんは震災の津波で自宅も漁業施設も流され、多額の借金を抱えながら養殖業を再開した。「収入ゼロがこれ以上続くのは苦しい。早く安全性が確認され、規制を解除してもらいたい」とため息をつく。
 同市唐桑町は宮城県内有数のホタテ産地で、震災前は年間約750トンを生産していた。震災で養殖施設の大半が壊されたが、今季は約650トンまで回復。それにもかかわらず出荷規制で、出荷量は約60トンにとどまる。
 気仙沼湾でことし、ホタテが出荷できたのは8月の1カ月間だけ。他の期間はまひ性と下痢性の貝毒が断続的に検出され、出荷にストップがかかった。長年ホタテを養殖している鈴木さんの父定則さん(64)は「規制がこんなに長く続くのは初めて」と驚く。
<津波影響?>
 貝毒の発生は東日本大震災との関連性が指摘されている。宮城県気仙沼水産試験場(気仙沼市)によると、震災の津波で海底の土中深くに潜伏していた原因プランクトンの休眠胞子が巻き上げられ、海底の表層に集積。一定の水温下で増殖しやすくなったとみられる。
 気仙沼湾では震災前、まひ性貝毒はほとんど発生していなかった。同試験場は「もし休眠胞子が湾内に残れば、来年もことしと同様の状況になる可能性がある」と警鐘を鳴らす。
 漁業関係者からは、現行の検査海域を細分化し、貝毒が検出されない海域では出荷を認めてほしいとの声が上がる。
 宮城県漁協唐桑支所の立花洋之支所長は「来年も同じ状況なら誰もホタテ養殖ができなくなる。気仙沼湾を細分化して貝毒が検出されない海域では出荷を認めるよう配慮してほしい」と求める。
 気仙沼湾のホタテの出荷規制は最短でも12月2日にならないと解除されない。
[貝毒] 毒素を持つ植物プランクトンをホタテなどの二枚貝が体内に蓄積することで生じ、大量に食べると下痢やまひなどの症状を引き起こす。国の規制値を超す貝毒が検出された海域では、生産者は出荷を自主規制しなければならない。1週間ごとの検査で、3週連続して規制値を下回らないと出荷を再開できない。

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