水産加工 遅れる再開 気仙沼の雇用停滞続く

東日本大震災で基幹産業の水産業に深刻な被害を受けた宮城県気仙沼市は、宮城県内最悪の厳しい雇用状況が続く。震災から9カ月が過ぎたが、再開できた水産加工会社は少なく、それが有効求人倍率の低迷につながっている。一方、再開した業者からは「買い手市場のはずなのに人が集まらない」との声も漏れる。(田柳暁)
<求人は県内最悪>
 ハローワーク気仙沼によると、管内(気仙沼市、南三陸町)の10月の求人数は1703人、求職者数は4321人で、有効求人倍率は0.39。震災以降、7カ月続けて県内最悪を記録した。
 県内8カ所のハローワーク別に10月の求人倍率を前年同期と比較すると、気仙沼以外は7カ所とも上回っている。県内では雇用状況に改善の兆しが出てきたのに対し、気仙沼地域だけが持ち直せていない。
 気仙沼地域の求人全体は前年同期のほぼ2倍に上っているが、求職者数も2.3倍に達する。ただ、食品製造に限ると求人は3割も減少した。
 ハローワーク気仙沼の太田博統括職業指導官は「再開できない水産関連の加工場が多く、求職者が減らない要因の一つ」と話す。水産加工会社の再建の鈍さが、有効求人倍率に影響しているという。
<建築制限が壁に>
 気仙沼市で、再開できた水産加工関連の会社はまだわずかだ。加工場が密集していた魚市場周辺や鹿折地区は「被災市街地復興推進地域」に指定され、大規模工場の建築は制限されている。
 ある業者は「市が来年3月までに決める都市計画を見ないと、何も動けない。その間に従業員が他の会社に移ってしまわないか不安だ」と心配する。
 11月上旬にシメサバの加工場を再開させた八葉水産の清水敏也社長(51)=気仙沼市=は「最低でも以前と同じ規模の工場にしないと、従業員の雇用を守れない」と力を込める。
 津波で、同市松岩地区にあった三つの加工場、二つの大型冷蔵庫が、大きな被害を受けた。約150人いた従業員全員を解雇した。
 比較的被害が少ない工場から復旧工事に取りかかり、8カ月で従業員約30人を元の職場に戻した。12月中には冷蔵庫2カ所も再開する予定。来年3月の稼働を目指し、塩辛の加工場再開にも全力を挙げる。「少しずつだが、同じ仲間で気仙沼の元気をつくっていきたい」(清水社長)
<失業給付選ぶ?>
 「買い手市場のはずなのに、求人に応募がない」との声も聞かれる。
 魚市場近くの加工場が被災し、内陸部に工場を移した水産会社の幹部は「ハローワークを通じて求人を出しても、反応はさっぱりだ」と打ち明ける。「日当がいいがれき撤去を選んだり、雇用保険の失業給付で生活している方がいいと考えたりしているのではないか」と推測する。
 気仙沼市も、国の緊急雇用創出基金事業を活用し、役所窓口の補助など約760人分の雇用を生み出したが、応募は8割程度にとどまった。
 ハローワーク気仙沼の太田統括職業指導官は「以前の職場で働きたいと考え、工場の再開を待っている人も多いのではないか」と指摘する。

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