汚職、放火、高級住宅街「宝塚市」がブランド維持に頼る トリプル周年

 「歌劇の街」として知られる兵庫県宝塚市が盛り上がりをみせている。市内に拠点を置く宝塚歌劇団が4月1日に創立100周年を迎え、注目を浴びているからだ。加えて、漫画家、故手塚治虫さんの資料を集めた市立手塚治虫記念館が開館20周年。さらに、市制施行60周年でもあり、市にとって「トリプル周年」の“記念イヤー”だ。市は、関連グッズを作製したり、記念イベントを展開したりと観光客の呼び込みなどに力を入れている。市では近年、現職市長の汚職事件や市庁舎で放火事件が発生するなど暗い話題が相次いだだけに、イメージアップに躍起だ。 (猿渡友希)
 ■歌劇と歩んだ歴史
 黒木瞳さんや真矢みきさんら元タカラジェンヌが駆けつけ、宝塚大劇場(宝塚市栄町)で盛大に行われた宝塚歌劇100周年記念式典から2週間たった4月19日。宝塚ホテル(同市梅野町)では、市制60周年記念式典が行われた。
 式典は、市民ら約1100人が参加したほか、歌劇団星組組長の万里柚美(まり・ゆずみ)さんや、宝塚音楽学校の生徒らも参加し、華やかに“還暦”を祝った。
 式典の中で、宝塚歌劇団に市民栄誉賞第1号が贈られた。中川智子市長は「歌劇団は長きにわたり、夢の舞台を繰り広げ、多くの人を魅了してきた。宝塚市は、これからも夢と希望を与えてきた歌劇とともに歩んでいく」と、市と歌劇団の結びつきを強調した。
 表彰状を受け取った歌劇団の小林公一理事長は「宝塚の皆さんに育てられ、100年続けることができた。これからも宝塚の名を世界に発信していきたい」と述べ、万里さんも「世界に愛される劇団になるよう、宝塚市とともに歩んでいきたい」と二人三脚での発展を望んだ。
 ■憧れの「住みたい街」
 大阪の中心部から所要時間30分ほどの距離にある宝塚市は住宅地として発展してきた。
 市は昭和29年、宝塚町と良元村が合併して誕生。発足当初4万人だった人口は、平成7年の阪神大震災で落ち込んだものの、その後マンション建設が相次ぎ、現在では約23万人にまで増加した。花屋敷、御殿山、仁川、ひばりが丘など、阪急電鉄創業者の小林一三氏が沿線開発した住宅街は、今も閑静な高級住宅地として人気が高い。
 あわせて、文化観光都市としての一面も持つ。
 市内には、大正2年創立の宝塚歌劇団の本拠地・宝塚大劇場があり、これまで黒木さんや真矢さんらのほか、八千草薫さんや鳳蘭さん、大地真央さんら多くのスターを輩出。同劇場には毎年100万人以上の観客が訪れる。
 また、手塚さんは、5歳から24歳までの約20年間を同市で過ごしている。「手塚治虫記念館」では、手塚さん愛用のベレー帽などを展示しており、手塚ファンのメッカになっている。
 さらに、多くの映画も生まれた。昭和26年には市内に宝塚映画製作所が設立された。関西屈指の映画製作所として知られ、当時はスタジオだけでなく街中でも黒澤明監督や小津安二郎監督がメガホンをとり、森繁久弥さんや三船敏郎さんといったスターを撮影した。日本映画の黄金期を支え、58年に閉鎖されるまで劇場映画176本、テレビ映画3200本が同製作所で撮られたという。
 35年には宝塚ファミリーランドがオープン。大阪から近く、動物園や植物園などを併設した家族連れで楽しむことができる遊園地として人気を集め、49年には年間252万人の来園者数を記録した。
 便利な住宅地と芸術文化の香りがする観光都市という両面をもつ宝塚市。それだけに、人気は高く、リクルート社の「住みたい街」ランキング関西版では上位に入ることが多い。「町並みに気品が感じられる」「住宅環境が優れている」などとの声も聞かれる。
 ■事件相次ぎ“ブランド”失墜
 ただ、近年はそのようなイメージを落とす出来事が相次いでいる。
 平成18年、当時の市長の渡部完氏がパチンコ店出店に便宜を図る見返りに高級乗用車を受け取ったとして収賄容疑で逮捕された。21年にも前市長の阪上善秀氏が収賄容疑で逮捕され、2代続けて現職市長が逮捕されるという異例の事態に。
 25年7月には、市税を滞納し預金口座を市に差し押さえられたことに立腹した無職の男が、市役所1階の市税収納課で、火を付けたガソリン入りの瓶を投げるなどして放火し、職員2人に軽傷を負わせる事件も発生。全国的に“宝塚ブランド”のイメージは失墜した。
 ■魅力発信にあの手この手
 市にとって暗い話題が続いただけに「トリプル周年」はまたとないチャンスだ。
 市は26年度当初予算で、関連計21事業に8447万5千円を計上。市民限定の歌劇団公演など記念イベントを開催したり、手塚さんの代表作「リボンの騎士」の主人公・サファイアのイラストをあしらったランチョンマットなど関連グッズを作製するなどしており、今年は市内の至るところで歌劇団や手塚作品を感じられるよう仕掛けをしている。
 4月4日には、宝塚大劇場内に、歌劇団の発展に貢献した人たちの功績を紹介する展示施設「宝塚歌劇の殿堂」がオープン。殿堂入りした歴代のスターやスタッフ計100人のゆかりの品などが展示されている。
 また、手塚治虫記念館と宝塚歌劇の殿堂、宝塚音楽学校の授業風景の写真などを展示している「すみれミュージアム」(同市武庫川町)の3館では、2館目以降を訪れた際に1館目の入館券を提示すると入館料が半額になる「3館回遊キャンペーン」を4月7日から実施している。
 最盛期に年間1千万人を超えた観光客も、昨年は800万人まで減少したが、「トリプル周年」を機に増加の兆しが見え始めている。市は、イメージをアップさせ、観光客の増加とともに、住民の定着も図りたいところだ。
 市政策推進課の担当者は「歌劇や手塚さんは市の誇り。イメージダウンするような事件もあったが、市民の信頼を取り戻し、ますます魅力的で、住んでよかったと思える街にしたい。トリプル周年を機に多くの人に宝塚を訪れてもらい、素晴らしい町だということを知ってもらいたい」と話している。

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