沖縄発のスマートフォン向けゲームが話題を呼んでいる。複雑に入り組んだ構造から「迷宮」とさえ呼ばれる東京・新宿駅にプレーヤーが挑む「新宿ダンジョン」は30万ダウンロード(DL)を超え、飛び出す絵本のように3D画面が浮かび上がってくる「Tengami(テンガミ)」は世界19カ国で総合売り上げトップを記録した。沖縄の環境がゲーム制作に向いているとの声もあり、新たな成長分野として期待されている。(矢島大輔)
新宿ダンジョン 30万DL駅地下の「迷宮」再現
プレーヤーはいくつもの改札をくぐり、階段を上り下りしながら、宝が隠された都庁を目指す-。3月10日にリリースされた無料のロールプレイングゲーム「新宿ダンジョン」は、「迷宮」と呼ばれる東京・新宿駅が舞台だ。
新宿駅は六つの鉄道会社の路線が乗り入れ、1日の乗降客数が日本一の平均300万人以上。地下に張り巡らされた通路、改札の中に改札があり、初めて訪れる人を悩ませてきた。
開発者のゲームクリエーター上原大介さん(29)=北谷町=は観光で東京を訪れた2年前、食事に立ち寄った新宿駅で迷い、1時間あまり抜け出せなかった。「ドラクエとかに登場する地下迷路のダンジョンの世界そのものだった。これはゲームにできると思った」
上原さんは沖縄市出身。電子機器のプログラムを作る県内の会社で働き、25歳で独立した。人気ゲーム「テトリス」を改良し、「上」というブロックが降ってくる理不尽なゲーム「上原テトリス」の制作者としても知られる。
ノートとペン、ネット上の地図をダウンロードしたiPhone(アイフォーン)を手に、昨年4月から1年で計5回、新宿駅構内の解明に挑んだ。1回の滞在期間は5日ほどで、駅近くのネットカフェに宿泊。1日7時間、くまなく構内を歩き回る日々。足は靴ずれで内出血を起こし、痛みでうずくまることもあった。
「何度も心が折れそうになったけど、ほかの人には作られたくなかった。完成したとき、迷宮から脱出したような解放感があった」
「新宿ダンジョン」は駅のデパートの通路を使う抜け道まで忠実に再現し、鉄道ファンらも「再現度が高い」とうならせた。上原さんは4月から、新宿駅に次いで乗降客の多い渋谷駅を舞台とする「渋谷ダンジョン」の制作にとりかかっている。
「ネットさえつながれば、アプリ開発はどこでもできる。生活費や家賃の安い沖縄は挑戦しやすい土地」と、上原さんはこれからも沖縄で活動を続けていくという。テンガミ
総合売り上げ19カ国1位和の質感 中高年も熱
スマホの画面を指でさっとなでると、飛び出す絵本のように次のステージへつながる階段や井戸が現れる。2月20日に発売されたアプリ「テンガミ」(500円)は、散った桜を再び咲かそうと武者姿の男が旅をする物語。制作者の一人の東江亮さん(39)=那覇市=は「ゆっくり雰囲気を味わえる癒やし系アドベンチャーゲームです」と話す。
東江さんは愛知県出身。2001年に英国のゲーム会社に就職。元同僚に誘われ、12年に英国のベンチャー会社「ニャムヤム」に入り、13年からは共同経営者になった。英国で知り合った妻の理子さん(42)の実家がある那覇市に2年前に引っ越した。海外の同僚とはテレビ電話「スカイプ」を使って毎晩やりとりをした。仕事に煮詰まると、海を眺めて気分転換。幼い3児の子育てを祖父母は手伝ってくれる。「沖縄はクリエーターにとって理想的な環境」と東江さんは言う。
3年がかりで制作したテンガミは発売1週間で、19カ国でiPhone(アイフォーン)、iPad(アイパッド)など向けウェブストアの総合売り上げ1位を記録した。
東江さんは登場人物や動物、背景を造形する役割を担った。和紙の質感を生かすなど、徹底的に和にこだわった。中高年層にも好評で、82歳のお年寄りから「ゲームを初めて買いました」とメールが届いたという。