【一筆多論】
鳩山政権の看板政策である「子ども手当」の支給が、来月スタートする。学習塾や子供関連メーカーなどは商機到来と、準備を進めているようだ。
専門家によると2人目、3人目の子供を考える夫婦には一定の政策効果がありそうだという。だが、それは「巨費を投じる割には効果が限定的」ということも意味する。
少子化対策は、保育サービスの拡充や働き方改革などを総合的に講じることで機能する。民主党でも、来年度以降の支給額を見直す動きが出てきたようだが、当然の流れであろう。
そもそも、子ども手当は少子化の主要因に対応する政策とは言い難い。多くの専門家は少子化の最大の要因を「未婚化、晩婚化」に見いだしているのだ。30~34歳男性の未婚率は昭和50年の14・3%から、30年後の平成17年には47・1%に激増した。25~29歳の女性は20・9%が59・0%に跳ね上がった。平均初婚年齢も高くなっている。まさに日本の危機といえよう。
ところが、政府は自民党政権時代から少子化対策といえば、生まれてきた子供をいかに大切に育てるかという「養育支援」に中心を置いてきた。子ども手当もその延長線の発想だ。
「養育支援」は大事である。だが、日本では婚姻率の低下は出生数減少に直結する。「養育支援」を手厚くしても子供が生まれなければ、日本は存亡の危機にさらされる。出生数減に歯止めをかけるには、未婚・晩婚化対策に向き合うべきだ。
なぜ、日本の若者は結婚しなくなったのだろうか。むろん結婚は個人の意思である。「結婚しない」のも選択肢の一つだ。だが、政府の調査では男女とも約9割が結婚を望んでいる。
「理想の人と出会わない」「長時間労働で相手を見つける暇がない」など理由はさまざまだ。「婚活」も盛んだが、社会全体でもっと男女の出会いの場を増やす必要があろう。
むしろ深刻なのは雇用が不安定で「結婚なんて考えられない」という若者が増えていることだ。「就職氷河期」と重なった団塊ジュニア世代には、いまだ不安定な雇用状況に置かれている人が少なくない。就職してもなかなか昇給しない。30~34歳の年収をこの10年で比較すると、その頂点が200万円ほど下がったとの分析もある。
若者の不安定な雇用と所得水準の低さは、さまざまな分野にも影響を及ぼす。例えば年金だ。保険料を払う余裕がなければ、やがて無年金者や低年金者を生む。さらには生活保護受給の増大へとつながっていく。
少し前に、「パラサイトシングル」という言葉が話題となった。成人しても同居する親の経済力に頼り、未婚のままでいる人たちを指す。だが、いずれ親たちは現役を退く。いつまでもこうした形が続くわけではない。それどころか、未婚者が親の介護をせざるを得ないケースも増え始めた。ますます結婚どころでなくなる。
今春の就職戦線は例年になく厳しかったが、景気の動向で人生が左右されるのはおかしい。日本では卒業後に職を探すのは難しい。まずは、何度でも再チャレンジできる社会に改める。セーフティーネットの強化も急がれる。若者が家庭を築けないような社会が続けば、日本の未来はない。(論説委員)