急成長を続けてきた有料音楽配信の市場の伸びにブレーキがかかった。平成18年に総売上高が対前年比56%増を記録するなど活況を呈(てい)してきたが、昨年は約909億円で前年とほぼ同じ。原因は無料の違法ダウンロードの激増で、音楽業界では警察などと連携して撲滅(ぼくめつ)を図っているが、なかなか効果が上がらず頭を抱えている。(岡田敏一)
■オリコン社長も怒り
業界関係者の間で「CDだけでなく、ダウンロードまで売れなくなっている」と囁(ささや)かれ始めたのは昨冬ごろ。日本レコード協会(東京)が先ごろ発表した数字に、その傾向が顕著(けんちょ)に現れている。
米アップル社の有料音楽配信サービス「iTunes(アイチューンズ)」が日本でも始まった17年から取り始めた統計によると、売上高ベースで18年は対前年比56%増、19年同41%増と急激に市場を拡大したが、昨年はほぼ横ばい。数量ベースだと0.2%減と調査開始以来初の減少に。市場の牽引(けんいん)役だった「着うた」の売上高は、20年も21年も前年同期比19%減と大幅に減少した。
ブレーキの原因について同協会は「違法サイトからの無料ダウンロード」をあげ、「18年の調査で、違法ダウンロードの総数は有料配信より1億4500万件も多い年約4億7千万曲だった」と明かす。一番安い「着うたフル」(1曲約200円)に換算すると約940億円が闇に消えた計算で、「その後もさらに増えているだろう」。
業界では警察などと連携して違法サイト撲滅に努めている。同協会は、18年から大手サイトやプロバイダーに違法サイトの削除依頼を続けており、「サイトの制作者ら約100人が著作権法違反容疑などで逮捕されている」という。20年10月には国内最大規模の違法サイト「第(3)世界」の開設・運営者が京都府警に逮捕され、懲役3年執行猶予5年と罰金500万円の判決が下った。
昨年のCDの総売上高は前年比16%減の約2460億円で12年(約5239億円)の半分以下。CDと配信の比率は現在ほぼ7対3で、CDの落ち込みを配信で補いたいだけに成長のブレーキは大きな打撃だ。
今年1月、違法サイトの制作者だけでなく、違法と知りながら音楽や映像をダウンロードする行為も違法となる改正著作権法が施行されたが、私的利用での刑事処罰がないため「相変わらず利用者に罪の意識がほとんどない」(関係者)。
音楽業界誌オリコンの小池恒社長(45)は「“音楽はタダ”という間違った認識が蔓延(まんえん)している」と指摘。「今、違法ダウンロードは正規の件数の何倍にもなっている。まさにバケツの底に穴が空いた状態。犯罪行為なのだから、携帯電話業界と音楽業界が連携して撲滅に取り組むべきだ」と危機感を募らせている。
【用語解説】有料音楽配信
パソコンや携帯電話からインターネットにアクセスして楽曲を購入するシステム。日本では「着うた」や「着うたフル」のように携帯電話用が約9割を占める。サビの部分など楽曲の一部を購入する「着うた」は平成14年12月の発売直後から人気を集め、16年11月には1曲丸ごと購入できる「着うたフル」が登場した。