セシウム米、セシウム牛、セシウム茶――福島第1原発の事故以降、メディアをにぎわせてきた暫定基準値を超える食品の数々。体の中に入れるものだから、食品の安全にはどうしても敏感になる。しかし、一般消費者は自分が食べている物がどれだけ安全かを知る術がほとんどないし、こだわり過ぎると食べる物がなくなってしまう。不安を和らげ、折り合いをつけるためにはどうしたら良いのか。2011年10月21日のニコニコ生放送では、「放射線による食品汚染の実態に迫る」をテーマに、識者5人が基本的な考え方をレクチャーした。このなかで、三重大学准教授の勝川俊雄氏は、具体的にどんな食品に注意すべきか語った。
■チェルノブイリの例から導き出された「注意すべき食品」
番組冒頭、勝川氏は食品の暫定基準値について解説する。日本では、放射性のセシウム(+ストロンチウム)による内部被曝の上限を「5mSv/年」(Sv=シーベルト)と設定し、これを5つの食品カテゴリーに1mSvずつ割り振っている。そして、成人・幼児・乳児がそれぞれ1日に食べる平均量のデータを使って、1mSv/年を超えないように、食品が発する放射能を何ベクレルに抑えれば良いのか算出しているという。ただし、5つのカテゴリーの内、現状では飲料水と乳製品からはほとんど検出されていないので、実際に問題になるのは野菜、穀類、肉・卵・魚介類の3つになってくるそうだ。仮にこの3つで基準値ギリギリの食品を食べ続けても、3mSvなので5mSvには届かない。
では、具体的にはどんな食品に注意すべきなのか。勝川氏は計測されたデータを用いて、傾向を説明していく。まず、野菜の分野では葉菜に着目。葉菜では、度々問題になったホウレンソウなど、震災直後、多くの品目で基準値を超えるものが見つかった。しかし、現在ではかなり低い数値しか検出されていない。これは、初期の段階では葉っぱの表面についていた放射性物質が雨などで流されたからだ。現在のデータからすると、今のところ根から葉菜内部に吸い上げられた分は少ないという。今後、放射性物質が、より根に近いところに浸透したときにどういう数値が出るか、継続して調べて行く必要はあるが、リスクはかなり減ったと見て良いそうだ。一方で、勝川氏はかつて原発事故のあったチェルノブイリの例から、今後も注意が必要なものとして、キノコ類、ナッツ(クリ・ギンナン)、ベリー類の3種を挙げた。
■「暫定基準値はいつまで”暫定”なのか」
肉類では、牛は全頭検査されているし、豚・鶏は輸入飼料が使われている分、数値は低い。逆に注意が必要なのは、シカやイノシシといった野生動物だ。魚類では、小魚(コウナゴ・シラス)は震災直後こそ高い数値が出たが、現在はピークが過ぎて徐々に下がってきている。逆にこうした小魚を捕食するアイナメ・カレイ・スズキは、数値が伸びており、「これから1年ぐらいは産地を見たほうが良いと思います」。また、淡水魚はイオンが少ないところに生息しているので、全般的にセシウムを溜め込みやすく、注意が必要だという。
日本の暫定基準値は海外に比べて緩いという批判も多くされている。これについて、勝川氏は、基準値が低すぎると食品を供給できなくなるし、高すぎると内部被曝のリスクが高まることから、「汚染が未知数の状態では線引きが難しかった」と一定の理解を示すが、
「事故がどういう形になるか分からなかったから”暫定”だったわけですけど、今は大体、食品の状態が分かっているわけなんですよね。だから、いつまで暫定なんだろうなって思います。もっと、内部被曝を抑えるような低い基準値を設定して欲しいと思います。ただ、これが内部被曝だけでなく、外部被曝も含めて、トータルで放射線から国民を守っていくという全体図を示してほしいなと思います」
と語った。