津波の脅威 肌で感じて 予想上回る来場者 宮城・気仙沼市の伝承館 開館1年

宮城県気仙沼市が同市波路上瀬向に整備した「気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館」は、昨年3月10日の開館から1年を迎えた。市が初年度に見込んだ7万5000人を1万人近く上回る約8万4000人が来場。震災遺構の気仙沼向洋高旧校舎や津波の映像を通じて、震災を知らない県内外の観光客や学生たちに、津波の脅威や教訓を伝えた。
 11日は午前9時半の開館直後から、震災遺構の旧校舎に多くの来館者の姿があった。
 京都市の京都産業大3年吉本俊正さん(22)は、10日に東京であった就職活動の合間に訪れた。被災地訪問は初めてという吉本さんは「写真や映像では見ていたが、実際に津波の被害を目の当たりにすると感じ方が全然違う。津波の脅威を再確認した」と話した。
 10日現在の入場者は8万3740人で、6割が県外からの来館者。北海道から沖縄県までの各地をはじめ、米国やドイツなど海外からの来館者もいる。
 防災学習の場としても活用され、首都圏や関西圏からの教育旅行や修学旅行で利用した中学、高校は計85校に上った。
 伝承館の開館は、地元住民の語り継ぐ意識を高めるきっかけにもなった。
 「階上地域まちづくり振興協議会」の語り部部会は、来館者に津波の脅威を伝えるために発足。地元の階上中の生徒は旧校舎内で語り部活動を始めた。
 夫の正三さん=当時(67)=を津波で亡くした同市長磯大窪のパート三浦祝子さん(74)は、伝承館ができたのを契機に語り部活動を始めた。月1、2回、自身の経験を交えて津波の脅威を伝える。
 三浦さんは「わざわざ遠くから来てくれた方々に少しでも教訓を伝えたい。どんな災害であっても、自分の命は自分で守ることが大事」と強調する。
 伝承館は今後、地元の語り部などと協力した企画や教育旅行、修学旅行の誘致などにも力を入れる。佐藤克美館長(52)は「3月11日当時のありのままの姿を体感する施設として、震災を知らない世代にも教訓を伝え続けていきたい」と話した。
 菅原茂市長は11日に自由献花方式で行われた市の追悼式会場で、「被災地の他の伝承施設と連携し、より多くの人に津波の脅威、防災の大切さを伝える役割を果たしたい」と話した。

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