日立造船などは17日、新焼津漁港(静岡県焼津市)で、モーターなどを使わず津波の力で自動的に起き上がる防波堤の実証実験を報道陣に公開した。自然の波の力を利用し作動する防波堤の実験が公開されるのは国内で初めて。平成24年度にも自治体などでの実用化を目指す方針。
東日本大震災以後、自治体などが津波対策を急ぐなか、防波堤や水門といった関連技術の開発が活発化してきた。
同日午前10時、日立造船の研究員らが津波の来襲を想定し、安定して装置が立ちあがるかなどを確かめた。実験終了後、同社の坂井正裕機械・インフラ本部副本部長は「今後、一日も早く実用化して沿岸部を中心に安全、安心な暮らしをつくっていきたい」と語った。
開発した「海底設置型フラップゲート式可動防波堤」の実験装置は板状のステンレスで、平常時は水深約8メートルの海底に収納されている。津波などで海面の水位が上昇すると自動的に垂直に立ち上がり、海面上から高さ約2メートルの防波堤が瞬時に完成する。装置は普段はフックで海底に止められているが、地震が起きた際に遠隔操作で外す仕組みだ。
実験装置は、日立造船が東洋建設や五洋建設との共同開発で今年2月に新焼津漁港に設置した。
一方、津波対策をめぐっては、自治体が河口付近に設けられた水門について、閉鎖の遠隔操作や自動化などの対策を急いでいる。大型水門は閉鎖に30分以上要することもあり、多くは手動で操作するため閉鎖に手間取れば、津波が河川を逆流し被害が拡大する恐れがあるからだ。
大阪府港湾局では水門12基を管轄し、そのうち5基を遠隔操作に対応させている。残りの7基についても各水門を保有する地元市町村などと協議した上で、遠隔操作の対応を検討する。和歌山県も、河口付近や河川間の水門計91基のうち、遠隔操作や自動で閉まるのは18基にとどまる。このため県は「中長期的には残りも遠隔操作や自動化にしたい」としている。
水門メーカーの丸島アクアシステム(大阪市中央区)には、緊急地震放送と連動した水門の自動閉鎖システムについて年間数件だった問い合わせが、震災以降、自治体を中心に10倍以上に急増した。
総合建設コンサルタントのニュージェック(大阪市北区)で鉄構グループ技術統括の寺尾栄司さんは「津波の到達には時間的余裕も少なく、今後も新たな対策や技術が求められる」と指摘している。