東日本大震災の津波に耐えたものの、復旧事業の一環で移植され、枯れていた宮城県気仙沼市大島の「田中浜のケヤキ」の後継樹6本が、国立研究開発法人「森林総合研究所林木育種センター東北育種場」(岩手県滝沢市)から地元に引き渡された。原木と同じ遺伝子を持つ「2代目」が、かつての場所近くに植樹された。
各地の巨樹や名木をクローン技術で増殖して保存する「林木遺伝子銀行110番」の取り組み。東北育種場の三重野信場長らが3月27日、現地を訪れて鉢植えを地元住民に手渡した。
ケヤキは、近くの神社入り口を示す目印として約200年前に植えられたと伝わる。地域のシンボル的存在で、2019年夏時点で高さ約17メートル、幹回り約2・7メートルの大木だった。
津波で水没しながらも生き残ったが、海岸防災林の整備に伴って20年に60メートル先に移植。生育不良が予想されたことなどから、地元有志は原木の遺伝子保存を要望した。県気仙沼地方振興事務所(気仙沼市)から依頼を受けた東北育種場が穂木を採取し、一般のケヤキに接ぎ木する形で「クローン苗木」を育成した。
90~180センチに成長した苗木6本は、防潮堤の機能も果たす海岸防災林の斜面に植えられた。
植樹した気仙沼市観光協会大島支部の村上盛文副支部長(50)は「100年、200年とこの地に根付く大ケヤキに育ってほしい」と願った。三重野場長は「皆さんの役に立てて良かった」と安堵(あんど)した。原木は4月以降に伐採される。
育種場は2003年から「110番」に取り組む。東北育種場にはこれまで61件の依頼があり、苗木の育成は今回が45例目。